no title - 26


キラは女の子です


「ユニウスセブンが、地球に墜ちる・・・」



頭に浮かんだ映像を言葉に出して、キラはハッとしたように口を噤む。

血の気の引いた彼女の顔を、ライラは痛ましげに見上げた。



「私が、聞いたことが事実なら、そうなるね」

「・・・こんなこと、冗談で言ったりしません」

「・・・そうだな」



ため息を一つ吐くと、ライラは椅子から立ち上がり、キラへと近づく。

今にも倒れそうなキラの背に手をあて、診察用の椅子へと座らせた。



「ショックだろうが、まだ事の真相はわかっていないんだ。

 絶望するには早いだろう」

「・・・ええ。

 だけど、これであのユニウスセブンが失われることは、確かでしょう?」

「本当に、地球に墜ちていくなら、な」



あれだけの体積と質量を持ったものが、惑星の引力に引かれては戻しようがない。

あるとしても、おそらく時間も足りない。

それは、遙か彼方から来るわけではないのだ。

やれることは、限られている。

墜ちることを止められないのなら、小さくするしかなかった。

落下地点がどこであろうと、あのままでは地球は生き物の住める環境ではなくなる。

少しでも小さく、できることなら大気圏で燃え尽きるほど、小さく砕くのだ。



「あそこには、沢山の人が眠ってる。

 レノアさんも、いるのに・・・っ」

「レノア・・・?

 ああ、そうか。

 幼なじみだと言っていたな。

 レノア・ザラ。

 パトリック・ザラの妻で、彼の母親か・・・」



顔を手で覆っていたキラが、バッと顔を上げる。

それを、ライラは落ち着いた表情で見返し、軽く首を振った。



「今さら、だろう?

 これでも、軍に長いんだ。

 アスラン・ザラを知らぬわけ、あるまい?」

「・・・私」

「まだ、立つな!」



唇を噛んだキラは勢いよく立ち上がり、そのままよろけそうになったところを、ライラに支えられる。



「顔が白いぞ」

「・・・すみません」



心配そうに注意してくれる医師の腕を、だがキラはやんわりと外した。

今度は、よろめかない。



「私、心配だから、行きます」

「少し、休んでからにした方がいい」

「いえ。

 精神的なものですから」

「しかし・・・。

 まぁ、そうだな。

 親しい相手といた方が休まるか。

 ・・・探しに行くわけじゃないな?」

「もちろんです。

 部屋で、待っています。

 艦内をあんまり歩き回ってはまずいでしょうし」

「それは、艦長次第だがな。

 君のためにはその方がいいだろう。

 そうだ、薬を持っていくか?」

 

眠れるように、と差し出された薬を、キラは断った。

痛み止めも兼ねるというそれは、いざというときに頭を鈍らせる。



私が寝るんじゃなくて、アスランを眠らせてあげたいけど。

多分、薬なんか飲んではくれないよね・・・。



アスランは今頃、さらに詳しく聞かされているのだろうとキラは思った。

カガリが、さぞ狼狽えていることだろうとも。

キラだって、同じだ。

ユニウスセブンには、キラも好きだったレノア。

地球には、キラの両親もいる。

その危機に、どうして寝てなどいられようか?

キラはライラに礼を言うと、重い足取りで医務室を出た。



***



「・・・の家族は、アスハに殺されたんだ!」



遠くから、アスランがその部屋へ入る姿を見かけ、キラは足早に近づいて、その言葉を聞く。

ビクッとして、彼女の足は止まった。

一瞬詰めてしまった息をそっと吐き、キラはガラス越しに部屋の中を窺う。



「・・・で、誰が死ぬことになるか、ちゃんと考えたのかよ!」



憎しみを感じるその声の主は、キラも昼間会った、パイロットの1人だった。



オーブ出身だって・・・。

それで、彼の家族は、戦時中に亡くなった?

戦闘に、巻き込まれた?

・・・いつ?



オーブが、戦場となったのは、あの地球軍との戦いだけである。

あの時まで、オーブは完全に中立を保てていたし、あの後、オーブは一度滅びたのだ。



島への被害は、かなりあった・・・。

あそこに、彼の家族がいた?



その場に固まってしまっていたキラの目の前を、厳しい顔の少年が通り過ぎる。

彼女に目も止めず歩み去るその背へ、キラは足を踏み出した。



*** next

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