no title - 22


キラは女の子です


「ずっと、こうしたかったよ」



耳元で囁かれ、キラの体が微かに震える。

赤く染まった耳朶に、アスランの唇が触れた。

彼の言葉と共に、キラの上に重みが掛かる。



「アスラン・・・?」



キラは、恐る恐る顔を正面に向けた。

そこには見慣れたアスランの、見慣れない顔がある。

どうしていいかわからず、キラは泣きそうな気持ちでそれを見上げた。



「重い?」

「・・・平気、だけど。

 でも、動けない」

「嫌か?」

「・・・心臓が、ドキドキする。

 イヤじゃ、ないと・・・思うんだけど。

 泣いちゃいそう・・・」



その言葉を終えないうちに、キラの瞳に透明の雫が溜まる。

彼女が瞬くと、それが目尻から耳へと流れた。

それを追うように、アスランの唇が、キラの目元に降りる。



「私、変よ・・・。

 こんな」



言いかけたキラのその唇が、アスランのそれによって塞がれた。

キラは未知のことに驚き、反射的に逃げようとする。

だが、いつの間にか頭の後ろに回された彼の手で、キラの頭はしっかりと固定されていた。



「アス・・・っ」



声を上げようとした唇に、もっと深く口づけられる。

見開かれていたキラの目は、やがて閉じられた。



***



どれだけ、時が経っただろうか。

息苦しくてアスランの胸を叩いたキラによって、長いキスは終わりを告げた。

やっとのことで息を整えたキラは、見下ろすアスランをキッと睨む。

だが、潤んだ瞳、赤く色づいた唇では、いささかならず迫力が足りなかった。

本人には自覚が無く、アスランも敢えて指摘はしない。



「普通、こういうのは、恋人同士がするものだと思う」

「俺もそう思うよ」

「じゃあ、なんで私にするの?」

「キラを好きだからに、きまっている。

 さっきも言っただろう?

 聞いてなかったか?」



好きだ、と。

さっきそう言われた時のことを思い出し、キラの心臓が鼓動を速めた。



「き・・・聞いた、けどっ。

 で、でも、私とアスランは、親友、でしょう?

 恋人になんて」

「キラも俺を好きだろう?」

「・・・・・・・・・・・・好き、だけどっ。

 そ、それは、友達として、だから」

「キラは、友達とキスするの?」

「・・・っ、したの、アスランでしょ!」

「俺とのキス、嫌だった?」

「・・・それとこれとは、別!」

「別じゃないよ。

 ああ、でも、嫌じゃなかったことは認めるんだね」

「そ、それはっ」



これ以上は無いというほど、キラの顔は真っ赤になっている。

彼女は至近距離にあるアスランと目を合わすまいと、横を向こうとした。

しかし、アスランの手に阻まれ、果たせない。



「ねぇ、キラ。

 ちょっと、考えてみてくれないか」

「な、何、を?

 っていうか、ね、ねぇ、アスラン。

 その前に、お、起きよう。

 話、し辛いでしょ?」

「いいや」

「こ、この体勢、疲れるでしょ?」



キラの上に、アスランは上体を被せ、それを肘をついた腕だけで支えていた。

とはいえ、鍛えられたその体は、この程度で疲れるほど柔ではない。

だが、確かにこの体勢は理性が疲弊するかもしれないと、アスランは思った。

彼とて、今ここで事を進めるつもりは無い。

男として暮らしてきたキラが、本来の女性という姿に戻って、2年。

ずっと、アスランは待ってきたのだ。

こうして、彼を異性として、恋愛対象として見てくれることを。

長かった。

そして、怖くもあった。

キラの中で、アスランが特別な地位にあることは自負している。

けれど、彼女がいつか、アスランではない誰かに恋しないと、誰が言えるだろう。

だから、嬉しかったのだ。

先の発言は、キラのカガリへの嫉妬。

アスランの恋人への、嫉妬だった。

キラの心は、今もまっすぐにアスランへと向かっている。

しかしまだ彼女自身が、その想いに戸惑っていた。

それがわかる以上、彼はもう少し、待たなければならない。

もう少し、彼女の心が熟すまで。



「・・・・・・・・・そうだね」



それでも、アスランは起きあがる彼の気配に気を抜いたキラの不意をついて、その唇に触れるだけのキスをした。



*** next

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