no title - 19


キラは女の子です


「それで?」



話に区切りがつき、キラはふぅと息を吐く。

と、キラが落ち着くのを待っていたかのようにアスランが問い掛けた。



「・・・え?」

「キラは、さっきの質問に答えてないよ?」

「しつ、もん?」



キラに誤魔化すつもりはない。

本当に思い出せず、小首を傾げ、目を彷徨わせた。

その仕草でそれと察し、アスランは苦笑する。



「なにがあったのか、と訊いただろう?」

「え?あ・・・、うん。

 でも、それはだから、アスランが・・・」

「それもあるとは思うけどね。

 他にも何か、あるんだろう?」



じいっと見つめてくるアスランを、キラは不思議そうに見返した。

だが、何かに思い至ったように、その表情が一変する。



「あ・・・」

「キラ?」

「な・・・、なんでもない、から」



不自然に目を逸らすキラに、アスランは立ち上がった。

その動きに、キラの肩がピクリと揺れる。



行ってしまう?



無意識に伸ばされたキラの指先が、アスランの袖口に触れた。

そのまま掴んでしまう。

そうして縋るように見上げれば、そこにはアスランの微笑みがあった。



「あ・・・」



まるで、キラの行動をわかっていたかのようなその態度。

話を拒否しておいて、自分のとった行動に、キラは赤面する。

それを見てか、アスランの笑みは深くなった。



「話す気になった?」

「・・・うん」



なんだかからかわれているような気分で、キラは拗ねたように頷く。

話したくない気持ちより、今、アスランと離れたくなかった。

一連の騒動で忘れかけていた、一つの死。

思い出して、キラの心に重くのし掛かっている。

口にするのは、辛かった。

自分の軽率が招いたそれを、アスランに知られたくない。

そう思う一方、誰かに聞いて欲しいとも思うのだ。

そして話すなら、アスランに決まっている。

カガリではダメだった。

アスランもカガリも、とても優しく、でも厳しいことでもはっきりと言う。

キラは、そんな2人が大好きだった。

それでも、キラの中で、彼らは同列ではない。

彼女の天秤は、常にアスランの側へと傾いていた。

親しさの度合いが違い、そしてまた、彼らの立場の違いもある。

なによりも、キラにとって彼は本当に特別な存在だった。



***



話すと決めても、キラは何から話そうかと迷う。

しかし結局、アーモリーワンで別れた後からのことを、順を追って話し出した。

言いたいことは多々あるだろうが、アスランは黙ってじっと聞いている。

そうして、もっともキラが思い出したくなかったところで言葉が途切れた。

泣きたくなる気持ちを、奥歯を噛み締めて堪える。

大きく息を吸い、息を吐くのと一緒に、体に入った力を抜いた。



「私は、迷わなかったの。

 迷う、暇も無かったけど。

 危険って感じて。

 目の前の議長の腕を掴んで・・・。

 次の瞬間には、熱い空気に押されて転がっていた。

 立ち上がって振り向いたら・・・。

 それまで私がいたその場所に」



その時、横に座っていたアスランが、キラの肩を抱き寄せる。

彼女の震えを止めるように。



「私が、巻き込んだの。

 少なくとも彼は、そう。

 私が大人しくしていれば」

「仮定に意味は無い」

「でも・・・っ」

「いつだって、道は一つじゃない。

 その兵士は、自分で選択したんだ。

 その結果を背負えるほど、君は偉いのか?

 自惚れるんじゃない」

「・・・アスラン」



その口調とは裏腹に、アスランの声はキラの耳に優しく響いた。

彼の、穏やかな言葉が続く。



「キラは議長を助けた。

 命を一つ、キラは救った。

 事実はそれだけだよ」

「でも」

「この件については、譲らない。

 その時に、この怪我を負ったんだね。

 それで、その後キラはどうしたんだ?

 まだ、この艦にキラがいる理由を聞いてない」



真剣な眼差しのアスランに気圧され、キラは促されるまま話を続けた。



*** next

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