no title - 18


キラは女の子です


「ねぇ・・・」

「・・・」



立ったままアスランに抱きしめられ、どのくらい経っただろう。

躊躇いがちに、口を開くが、返事は返らなかった。

逡巡の後、キラは口調を変える。



「名前を変えても、君は君だよ」

「・・・キラ?」



さすがに訝って、アスランはキラから離れようとした。

だが逆に、今度はキラが抱きつく。



「名前を偽ったからって、君が君でなくなるわけじゃない。

 立場を変えても、信じるものが変わっても。

 過去は変わらない。

 僕達は、昔に戻ることはできない。

 僕達がしたことを、無かったことにはできない」

「キラ・・・」

「アレックスって名乗っても、僕には君はアスランでしかない」



そこまで言って、キラは腕を解いた。

一歩下がると、アスランの腕も落ちる。



「話し方を変えても、私は私だって、アスランが言ったのよ。

 男のフリをしていた私と、今の私は、違うもの?」

「・・・そう、だったな」

「そうよ」



胸を張って言い切ってみせたキラを前に、アスランの口元が笑みを刻んだ。

キラにも笑みが浮かぶ。

しかしそれは、すぐに崩れた。



「だけど、アスランが、アスランだからこそ。

 私は、不安になるのかもしれない」

「何が、不安だ?」

「・・・なんか、アスランがどこかへ行ってしまいそう」

「そんなわけないだろう。

 俺はこうしてキラといる」

「・・・うん、そうよね」



アスランの言葉に、キラは素直に頷く。

だが、いっこうに晴れないその顔色に、アスランはキラを座らせた。

自身はキラの足元に跪き、俯き加減の彼女と視線を合わせる。



「俺の言葉が、信じられない?」



優しい声の問いかけに、キラはふるふると首を横に振った。

キラの顔は、今にも泣きそうに歪んでいる。



「何があった?

 ほら、唇を噛まないで・・・。

 傷が出来てしまうよ」



そっと差し伸べられたアスランの指が、キラの口元に触れた。

すっと横に滑らすと、キラの体から力が抜け、うっすらと唇が開く。

同時に、堪えていた涙が一筋、キラの頬を濡らした。



「ごめん、なさ・・・っ」



声を発すると、さらに涙が溢れてくる。



「アスランにとっては、プラントは大切な国でしょう?

 なんでオーブに居てくれるの?」



小さな声で、キラが訊く。

しかし返ってきたのは、呆れたようなため息だった。



「はぁ・・・?

 キラ、今さら訊くかい、そんなこと」

「だって、聞いたことない。

 カガリに頼まれた?」

「確かに、カガリには頼まれたな。

 だけど、多分キラが思ってるような頼まれ方じゃない」

「・・・?」

「キラがいるからだ」

「・・・え?」



アスランは手を伸ばし、キラの頬に触れる。

横へと逸らされていたその顔を、自分に向けさせた。



「カガリの頼みも、キラのことだ。

 大切なお前の為に、俺に傍にいろと言ったよ。

 俺は、お前の傍にいるために、その思惑に乗った」

「って・・・」

「知らなかったか?

 俺には、キラが一番大切なんだ。

 カガリにも、聞いてみるといいよ。

 きっと同じように答える」



頬に添えられたアスランの手が動き、その指がキラの目元を拭う。

いつの間にか、キラの涙は止まっていた。



「間違えないでくれ。

 俺は、オーブにいるわけじゃない。

 キラのいる場所に、いるんだ。

 二度と、繰り返さないために」



何を繰り返さないというのか。

それは言われなくてもわかる。

キラとて、彼を敵としなければならない事態など、考えたくもなかった。

あの時とは違う。

今のキラは、失う怖さを知っているから。



「うん・・・」



*** next

Top
Novel 2


Counter