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キラは女の子です | ||
「ねぇ・・・」 「・・・」 立ったままアスランに抱きしめられ、どのくらい経っただろう。 躊躇いがちに、口を開くが、返事は返らなかった。 逡巡の後、キラは口調を変える。 「名前を変えても、君は君だよ」 「・・・キラ?」 さすがに訝って、アスランはキラから離れようとした。 だが逆に、今度はキラが抱きつく。 「名前を偽ったからって、君が君でなくなるわけじゃない。 立場を変えても、信じるものが変わっても。 過去は変わらない。 僕達は、昔に戻ることはできない。 僕達がしたことを、無かったことにはできない」 「キラ・・・」 「アレックスって名乗っても、僕には君はアスランでしかない」 そこまで言って、キラは腕を解いた。 一歩下がると、アスランの腕も落ちる。 「話し方を変えても、私は私だって、アスランが言ったのよ。 男のフリをしていた私と、今の私は、違うもの?」 「・・・そう、だったな」 「そうよ」 胸を張って言い切ってみせたキラを前に、アスランの口元が笑みを刻んだ。 キラにも笑みが浮かぶ。 しかしそれは、すぐに崩れた。 「だけど、アスランが、アスランだからこそ。 私は、不安になるのかもしれない」 「何が、不安だ?」 「・・・なんか、アスランがどこかへ行ってしまいそう」 「そんなわけないだろう。 俺はこうしてキラといる」 「・・・うん、そうよね」 アスランの言葉に、キラは素直に頷く。 だが、いっこうに晴れないその顔色に、アスランはキラを座らせた。 自身はキラの足元に跪き、俯き加減の彼女と視線を合わせる。 「俺の言葉が、信じられない?」 優しい声の問いかけに、キラはふるふると首を横に振った。 キラの顔は、今にも泣きそうに歪んでいる。 「何があった? ほら、唇を噛まないで・・・。 傷が出来てしまうよ」 そっと差し伸べられたアスランの指が、キラの口元に触れた。 すっと横に滑らすと、キラの体から力が抜け、うっすらと唇が開く。 同時に、堪えていた涙が一筋、キラの頬を濡らした。 「ごめん、なさ・・・っ」 声を発すると、さらに涙が溢れてくる。 「アスランにとっては、プラントは大切な国でしょう? なんでオーブに居てくれるの?」 小さな声で、キラが訊く。 しかし返ってきたのは、呆れたようなため息だった。 「はぁ・・・? キラ、今さら訊くかい、そんなこと」 「だって、聞いたことない。 カガリに頼まれた?」 「確かに、カガリには頼まれたな。 だけど、多分キラが思ってるような頼まれ方じゃない」 「・・・?」 「キラがいるからだ」 「・・・え?」 アスランは手を伸ばし、キラの頬に触れる。 横へと逸らされていたその顔を、自分に向けさせた。 「カガリの頼みも、キラのことだ。 大切なお前の為に、俺に傍にいろと言ったよ。 俺は、お前の傍にいるために、その思惑に乗った」 「って・・・」 「知らなかったか? 俺には、キラが一番大切なんだ。 カガリにも、聞いてみるといいよ。 きっと同じように答える」 頬に添えられたアスランの手が動き、その指がキラの目元を拭う。 いつの間にか、キラの涙は止まっていた。 「間違えないでくれ。 俺は、オーブにいるわけじゃない。 キラのいる場所に、いるんだ。 二度と、繰り返さないために」 何を繰り返さないというのか。 それは言われなくてもわかる。 キラとて、彼を敵としなければならない事態など、考えたくもなかった。 あの時とは違う。 今のキラは、失う怖さを知っているから。 「うん・・・」 *** next |
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