no title - 17


キラは女の子です


「怪我の具合は?」

「ん、平気。

 お医者様には怒られちゃったけど・・・。

 まぁ、さっきのは不可抗力」



キラは努めて明るい声を出す。

だがアスランは、そうかと頷くだけで、黙り込んでしまった。



「部屋に行きましょ」



キラは、アスランの左腕に両腕を絡めて、彼を強引に立たせる。

そう力を込めたわけではなかったが、アスランはすんなりと従ってくれた。

歩き出しながら、キラは小さな声で話し掛ける。



「アスは・・・」



言いかけて、躊躇ってしまった。

訊きたいけど、望まない答えなら聞きたくない。

それがキラの本音だった。



でも、避けても変わるわけじゃない・・・。



「アスは今、後悔しているの?」

「いや」

「そう?

 なにか、迷っているように見える」

「・・・」

「プラントに、戻りたい?」

「それは無いよ」

「ほんとに?」

「ああ」



アスランの肯定に、一度はほっとしたキラだった。

だが、続けられた言葉に、体が強張る。



「あそこには、もう誰もいない・・・」



アスランに兄弟は無く、家族は両親だけで、2人とももうこの世にはいなかった

その母は開戦時に、父は終戦時に。

家族と呼べる人はいなくなってしまった。

そして。



私は、この手でアスランの仲間を殺した。

もう、命を奪い合うなんて、したくない。

アスランにだって、して欲しくなんか無いのに・・・。



「ザフトは?」

「戻れないよ」

「戻りたいんだ、やっぱり」

「違う、そうじゃない。

 ただ・・・」



アスランが嘘を言っているようには見えなかった。

しかし、言葉を選んでいるらしい沈黙に、キラが先に口を開く。



「最初、出ていったのは、4つだったよね」

「キラ?」



突然、脈絡のないことを言うキラに、アスランが戸惑ったような声を上げた。

かまわず、キラは続ける。



「後から、1つ。

 もどったのは、3つ」

「それ、は・・・」

「パイロット。

 さっきの3人しか、帰ってこられなかった」

「・・・そうらしいな」



話をしているうちに、士官室の並ぶ区画まで来ていた。

そのうちの一つの前で、キラが立ち止まる。



「私、ここ。

 アスは?」

「隣だ。

 カガリはその向こう、だな」

「・・・カガリのところへ、行くの?」



つい、口をついて出た言葉に、キラ自身が驚いた。

はっとしたように手で口を押さえる。



「ごめん、なんでもない。

 アス、疲れてるよね。

 私も、部屋に入るわ。

 じゃあ」

「キラ!?」



早口に言って、部屋へと足を踏み入れたキラの手首を、アスランが掴んだ。



「は、放して・・・」

「キラ、何を考えてる?

 何がお前を怯えさせる?」

「怯え・・・?

 そんなことない」



頑なに振り向こうとしないキラごと、アスランはその部屋の中へと入る。

空いた手で壁のスイッチに触れ、ライトを点けた。

さらに奥へと進むと、背後で扉が閉まる。

キラは手首を引っ張られ、バランスを崩した。

その彼女を、アスランが腕に抱き留める。



「ア、アス・・・」

「アスランでいい」

「でも」



キラの体に回された腕に、力が籠もった。



「キラには、ちゃんと名前で呼んで欲しいんだ」



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