no title - 16


キラは女の子です


「カガリは?」

「部屋に」

「そう」



アスランの横へ並んで腰掛け、キラは静かに声を掛ける。

部屋に入ってきたのがキラだと、アスランにはすぐにわかったらしかった。

一度として顔を上げることなく、問いに答える。

キラも、彼に視線を向けることなく、無言で目を閉じた。

こんな時、自分には何もできない、と思いながら。

昔から、落ち込むのはキラで、慰めるのがアスランというのが当たり前だった。

だから、こんな時に掛ける言葉が出て来ない。

そもそもキラには、アスランが今どんなことを悩んでいるのかが、はっきりとはわからないのだ。

ただ。



アスランは、私が傍にいると落ち着くって。

そう、言ってたから・・・。



実際、こうして横に座っても、アスランは特に反応を示さない。

こんなことは、キラ相手以外ではありえなかった。

アスランの育ちの良さと、そして軍人であったという事実。

それが、他人が同席している場において、常にアスランの気を緩ませない。



今は、このもやもやした気持ちは、忘れよう・・・。



彼はキラの心の動きに敏感で、彼女が不安がれば、それを察してしまうのだ。

アスランは、自分で考え、自分で答えを出すだろう。

せめてその邪魔をしたくなかった。

だが邪魔は、別の方向からやってくる。

通路から、複数の話し声が聞こえてきた。



***



「へぇ・・・、ちょうどあなたの話をしていたところでした、アスラン・ザラ」



紅の軍服に身を包んだ、女1人、男2人、そして先ほどキラが会ったばかりのメイリン。

先頭に立っていた女性が、アスランへと話ながら近寄ってきた。

キラは、残る男2人の陰に隠れたメイリンと、目で会釈する。



「伝説のエースに、こんなところでお会いできるなんて。

 光栄です」

「そんなものじゃない。

 俺は、アレックスだよ」

「だからもう、モビルスーツにも乗らない?」



キラは眉を顰めた。



この人は、どういうつもりなんだろうか・・・?



彼女の真意がキラにはわからない。

だが、その言葉はアスランの地雷を踏んだことはわかった。

きつく睨み上げるアスランの肩に、キラはそっと触れる。

それだけで、彼は我に返った。

しかしそこに、今度ははっきりと刺を含んだ声が響く。



「よせよ、ルナ。

 オーブなんかに、いる奴に。

 何もわかってないんだから」



声の主は、黒髪に赤い瞳の少年だった。

言い捨てて去っていく。

もう一人の兵士も、敬礼をして出ていった。

残ったのは、目の前に立つ彼女と、メイリンの2人である。



「でも、艦の危機は救ってくださったそうで。

 ありがとうございました」



敬礼をして背を向けた彼女を、キラは慌てて引き留めた。



「あ、あの!」

「・・・何か?

 っていうか、どちらさま?」

「お姉ちゃん、ほら、さっき言ったオーブの」

「ああ、そう言えば、その服」

「メイリンさんの、お姉さんですか?」

「そうよ。

 よろしく、ルナマリアよ」

「キラです。

 この服、私が使わせて頂いてしまってすみません」

「かまいません。

 メイリンにあげた物ですし、そのメイリンがいいって言うんですから。

 それで?」

「・・・ああ、その、今の人は?」

「・・・黒髪がシン、金髪がレイ。

 どっちも私と同じ、モビルスーツパイロット」

「あなたも?」

「ええ、変ですか?

 女の私がパイロットでは?」



特に含みは無かったのだが、どうやらルナマリアの気分を害してしまったらしい。

焦って首を横に振った。



「とんでもない!

 オーブでも、女性パイロットはいます」



そう言うキラとてモビルスーツのパイロットをしていたのであるが、それは今言うことではない。

キラの答えで納得したのか、ルナマリアはまた笑みを戻した。



「シンの発言は、赦してやってくださいます?」

「彼は」

「オーブが嫌いなんです。

 シンの故郷なんですけどね。

 詳しい話は、プライベートですからお答えできません」



では、と。

もう一度敬礼をし直して、ルナマリアは退室し、メイリンも後を追うように出ていった。



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