no title - 15


キラは女の子です


「あ、居た!」



看護師に治療を受けながら、声に反応してキラが顔を入り口へと巡らす。

そこには、艦橋で見かけた赤い髪の女性兵士が立ち、キラを見ていた。

居た、という発言からすると、どうやらキラを探して来たらしい。

心当たりのないキラは、首を傾げ、代わって別の声が答えた。



「・・・入って来るなり、それかね?」

「キャッ、ライラさんっ」



死角になった場所にいた医師に、彼女は気付かなかったらしい。

ため息混じりの言葉に、ちょっと飛び上がった。



「あ、あの、その人に届け物を・・・」

「・・・入りなさい」

「はぁい」



仕方なさそうな医師には近寄らず、彼女はキラの横に立つ。

左腕を看護師に預けたままなので、キラは首だけ捻って相手を見上げた。



「私に、ですか?」

「そう。

 これ、どうぞ。

 あ、こっちに置いておきますね」

「あの・・・?」

「服ですよ。

 艦には軍服しかないから、上着はこれを着てください」



話しているうちに、キラの腕の包帯が巻き終える。

自由になった体で、キラは立ち上がった。



「ありがとう、助かります」



キラの上衣は、二度の出血で、もう着られなくなっていた。

軍のアンダーシャツは貸してもらったので、それで我慢しなくてはと思っていたところである。

しかし、受け取った服を見て、眉を顰めた。



「これ、私服ですよね。

 私が着てしまって、いいんですか?」

「平気ですよぉ。

 姉からお古をもらったんですけど、私には大きいんです。

 差し上げますから、遠慮なく、どうぞ。

 お姉さんなら、似合いますよ」

「・・・ありがとう、ええっと・・・」

「メイリンです。通信管制を担当しています。

 お姉さんは?」

「キラです。

 ありがとう、メイリンさん。

 お姉さんにもよろしくお伝え下さいね」

「あは、気にしないと思いますよ。

 でも、後で紹介しますね」

「この艦に居るの?」

「モビルスーツのパイロットなんです。

 名前はルナマリア。

 あ、ついでに訊いていいです?」



終始、はにかむような笑顔で話すメイリンに、キラも自然な笑顔になっている。

しかし、その彼女の顔に突如浮かんだ好奇心という名の輝きに、キラはちょっと身を引いた。

それでも、相手の無邪気な様子に、キラもすぐに肩の力を抜く。



「答えられることなら」

「キラさんは、代表やあのアスランさんとどういう関係なんですか?

 すごく親しげでしたよね。

 お2人とも、自分や互いのことより、あなたを心配してるように見えたんですけど」



ずばりと訊かれ、さすがにキラも言葉に詰まった。

確かに、艦橋内で、うっかり気安く話過ぎたと反省する。

人前では気を付けようと自分に言い聞かせながら、変に誤解されないように説明を口にした。



「アスハ代表とは、親戚なんです。

 遠縁ですけど。

 彼とは幼なじみなんで」

「ああ、それで」



アスランとカガリの関わりより、どちらもキラと昔から親しい、というニュアンスを込めたそれに、メイリンも納得顔で頷く。

しかしキラは、この時うっかりしていた。

メイリンが、アスラン、と言ったのを否定していない。

そのまま答えてしまったことで、メイリンにアレックス・ディノ=アスラン・ザラと肯定したも同然だった。

もっとも、デュランダルがそう呼んだ時点で、否定しようもなかったのだが。



***



宛われた部屋の場所を教えられ、キラは看護師に背を押されるようにして、医務室を追い出された。

てっきり誰かに付き添われるのだと思い込んでいたので、キラはたった今出てきた医務室の扉を呆然と見つめる。



えっと・・・?

これって、軍艦なんだよね?

私が一人で勝手に歩いていいわけ?

・・・とりあえず、行こ。



首を捻らざるを得ない扱いに、困ってしまったキラだったが、気を取り直して歩き出した。

一人になれば、考えてしまうのは、アスランのこと。

アスランが、何かを思い詰めているのはわかるのだ。

ただ、それが何なのか、わからない。

もしかしたら、キラがそうであって欲しくないと思うことなのかもしれなかった。

傷に響かぬよう、ゆっくりと歩いていたキラは、ふと気配を感じて、横を見る。

キラの目に、俯いて顔を歪めている、アスランが飛び込んできた。



*** next

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