no title - 14


キラは女の子です


「この艦にはもう、モビルスーツは無いのか!?」



デュランダルが艦長に問いかける。

その声には、苛立ちが含まれていた。

冷静さを失わず、常に穏やかに話していた彼しか知らないキラは、意外な面もちで彼を見る。

今、彼らの乗るミネルバは、小惑星とその岩塊に囲われていた。

動くことができず、このままでは的になるのを待つしかない。

艦長は1機のモビルスーツを出すように言い、また現在交戦中の2機は戻れないのだ。

現在、この艦の敵は、ボギー1と称している戦艦1隻とモビルスーツ2機。

その上、艦は攻撃も防衛も出来ない。

そこへ、モビルスーツ1機でなにほどが出来るだろうか?

戦闘には素人だろうデュランダルですら、その不利さが理解できているのだ。

艦橋の全てのクルー、そしてアスランもカガリも、キラとて心に焦りが湧く。

そんな中、艦長はきっぱりと答えた。



「パイロットがいません」



その言葉は、キラの胸に突き刺さる。



パイロットは、居る。

私と・・・。



顔を顰めながらアスランを見れば、彼は何かを堪える表情をしていた。

もう戦いたくないと。

戦う力を持つことを忘れたいキラと、アスランとは違う。

彼は、軍人だったのだ。

正規に訓練を積み、ここにいる彼らと同じザフト軍の、エース・パイロット。



戦いをただ厭う私とは、違うんだ。

アスランは、力を尽くしたいと思ってる。

ここにいる皆を守るために。



そこに自分が含まれると知っているキラの気持ちは、複雑だった。

アスランにも、戦って欲しくないと。



***



小惑星側のスラスターを全開にし、同時にそちら側の砲を一斉射する。

この危機を脱するために、アスランがそれを進言した。

スラスターだけでは遅くて的になってしまうので、爆発を利用して、艦を押し出す。

問題は、艦の周囲に浮かぶ岩塊だ。

この作戦は、艦自らが岩に体当たりを食らわせるということでもある。

それによる艦体への被害は相当の物になると予想された。

クルーからの反対意見も出たが、艦長はそれを採択し、実行される。

衝撃に備え、今度は左腕に力を込めずに体を固定できるように、キラは座り直した。

横目に、アスランを見る。



アスラン・・・。

この気持ちは、なんだろう?

私は、アスランにどうして欲しいの?



命が懸かっているのだ。

そんな自問をしている場合では無いとわかっていながらも、キラは考えずにいられない。

彼ともう離れたくない。

なぜ今さらそんなことを思うのか、自分でもよくわからなかった。

アスランは今、キラのすぐ横に座っている。

これは偶然にしても、今までだって、オーブで共に過ごしていた。

キラはカガリの傍にいて、アスランはそのカガリの護衛として。

仕事中はともかく、プライベートではよく会っていた。

2人だったり、カガリと3人だったりしたけれど。

これからだって、そう変わりはしないはずだ。

だが、何かがキラを不安にさせる。



***



結果的に、アスランの作戦は成功した。

ミネルバは、岩塊の群から脱し、敵艦に砲を直撃。

モビルスーツもろとも、敵は離脱した。

とはいえミネルバの損傷も激しく、もう追撃はできない。

戦闘は、終了したのだ。



「キラ、傷口が開いたのか!?」



アスランに続き、立とうとしたキラに、左側からカガリが声を発する。

キラの左袖に、血の染みが広がっていた。

もともと怪我をしたときのが赤黒く変色してはいたのだが、それは既に乾いている。

今、それが濡れていた。

顔色を変えたカガリが手を伸ばすのを首を振って制し、キラはそっと立ち上がる。

横に立ち、やはり腕を伸ばしてくるアスランには、微笑んだ。



「心配ないわ。

 そんな、たいした怪我じゃないの。

 ただ、治療したばかりで動かしてしまったから。

 注意されていたんだけど、怪我なんて久しぶりで」

「キラ」

「そんな顔しないで、アスラン」



デュランダルと艦長に付き添われて艦橋を出て、その通路でキラはアスラン達とは別の方向へ足を向ける。



「私、医務室へ行って来ます」

「場所はわかるかね?」

「ええ、もちろん。

 あ、私、一人で艦内を動いてもいいですか?」



いまさらなんですけど、と。

キラはちょっと不安そうに、デュランダルの横に立つ艦長に問いかけた。

タリアと名乗った彼女は、キラにそれを許可し、医師への連絡も請け負う。

努めて笑顔を保ち、キラはかれらに背を向けた。

通路を曲がり、彼女の表情が一変する。



「痛い」



呟きながら、自分が痛いのは傷なのか心なのかと思った。



*** next

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