no title - 13


キラは女の子です


「ひゃ・・・っ」



背後から迫る艦からの攻撃に、ミネルバが大きく揺れる。

その衝撃に耐えようとしたキラは、うっかり怪我をした左手で椅子を強く掴んでしまった。

小さく叫んだその声で、アスランがキラに顔を向けてくる。

揺れ続けているために、彼も体勢を整えるので精一杯らしかった。



「キラっ」

「・・・あっ・・・ぅ。

 ごめん、・・・平気。

 ちょっと痛いけど、それだけだから。

 大丈夫」



息を整えてから、ニコリと微笑み、早口にキラは言う。

実際、この程度の痛みが耐えられないわけではなかった。

自分の怪我より、このミネルバの危機の方が重大だからと。

言葉にせずとも、アスランには通じた。

キラと目を見交わし合うと、無言で頷いた彼は、意識を彼女から切り離す。

それが、キラにはわかった。

前を向き、スクリーンに映る情報とクルー達の交わす報告に、アスランの意識が集中している。

そんな彼から、キラは目を逸らした。

椅子の上で座る位置をずらし、安定し易い体勢に変える。

背を椅子に預け、目を閉じた。



どうしてまた、こんな・・・?



世界は、平穏を取り戻す。

それを誰もが願って、この2年を過ごしてきた。

平和を望むのはオーブだけではない。



それなのに・・・っ!



「キラ・・・」

「!」



呼びかけに左を見れば、カガリが心配げにキラを見ていた。



「怖いか?

 やっぱり、艦橋に連れてきたのはまずかったか・・・」



聞いて、キラは目を見開く。

と、キラの唇が微かに笑みを刻んだ。



今さら・・・ね。

怖くないと言えば、嘘になるけど。



「ここにいて良かった。

 ・・・そう思う。

 どうなっているのか、わからない方が怖い」

「・・・そうだな」



どうやら、話しているうちに、思い出したらしい。

同意するように、カガリが頷いた。

キラは戦闘に怯えたりしない。

それを避けていたことは事実だが、それは怖かったからではなかった。

怖くはないが、実のところ、キラは戦闘の様子を聞きたくないと思う。

聞いても、キラには何も出来ないからだ。

今のキラには、戦うだけの想いも、その力も無い。



死にたくない。

アスランを死なせたくない。

カガリも、ここにいる誰も、死んで欲しくはない。



それは紛れもなく、キラの本心だ。

けれど、その想いだけで戦うわけにはいかない。

それでは、本当に過去の繰り返しだった。



私は、戦うためにいるんじゃない。

そんなことのために、生きているんじゃない。



***



「ミサイル接近!数、6!」



鋭い叫びが、キラの意識を現状に立ち返らせる。



「迎撃!」

「でも、これは・・・」



戸惑ったようなクルーの声に、キラは自然とそちらを向いた。

キラの視線は、右上方へと流れる。

と、その視界で、アスランが息を呑むのがわかった。



アスラン?



問う暇もなく、アスランが身を乗り出す。



「まずい!

 艦を小惑星から離してくださいっ」



驚いて、キラはその寸前に見ていたスクリーンを見やった。

艦体に付けられたカメラが、艦体の一部と、アスランの言う小惑星の表面が映っている。



あっ!



おそらくはアスランが考えただろうことが、キラにも飲み込めた。

そう、キラ自身が相手だったとして、この状況なら同じことをしたかもしれない。

しかし、アスランの先の言葉も、遅かった。

それに艦長やクルーらが反応する前に、ミサイルが着弾する。

・・・小惑星に。



「離脱する!」



艦長の声が響くが、小惑星の欠片が艦へと降りかかり、進路を塞いでいった。



*** next

Top
Novel 2


Counter