no title - 11


キラは女の子です


「私はオーブの方々にもブリッジに入っていただきたいと思うのだが」



デュランダルが艦長と思しき女性に告げる。

アスランとカガリの陰から、キラは彼女が驚いたように振り返るのを見た。

それで当然と思うキラの前で、デュランダルが艦長を説き伏せてしまう。



「議長がそうお望みなのでしたら」



そう応えた艦長・・・タリアは、くるりと椅子を回して前を向いた。

デュランダルも椅子に座り、横に並んだ椅子を3人に勧めてくる。

足を踏み出そうとしたアスランの、その服の裾をキラはついと引いた。



「キラ?」



振り向いて小声を出す彼に、キラは躊躇いがちに訊く。



「私も、いいの?」

「キラを1人にはしておけない」

「でも」

「目を離すと、心配でならない」

「・・・ごめんなさい」



俯いてしまうキラの背を、アスランはそっと押した。

包帯の巻かれた左腕に触れないように、カガリと挟むようにキラを座らせる。



「キラ、平気か?」

「大丈夫よ、カガリ。

 怪我は、たいしたことないから」

「そのことじゃなく。

 あ、いや、さっきはすまない。

 私の所為で、痛い思いをさせてしまった」

「ああ、あれはちょっとタイミングが悪かっただけだから」

「・・・それで、その腕のことではなく。

 ここにいて、平気か?」



ここ、とは艦橋のことだと、カガリは身振りで伝えてきた。

クルーの声が響き、モビルスーツが出撃するのだとわかる。

これから、この艦は戦闘を始めるのだ。

カガリの気遣いに、キラは微かに頷く。



「どこにいても、同じだから。

 それなら、2人といる方が安心できる。

 ・・・大丈夫。

 ありがとう」



言いながらも、キラの右手は膝の上で強く握られていた。

その手に、暖かいものが触れる。

見ると、アスランの手が、キラの手を包み込んでいた。



「アスラ・・・?」



横に座ったアスランを見たキラに、彼は無言のまま、ふわりと微笑む。

その笑顔に、キラの動悸が速くなった。

怪我のせいか血色の悪かったキラの頬が、微かに赤くなる。

それと反比例するのように、体の震えが止まった。

ゆっくりと、アスランの手がキラから離れる。

気付いたキラは、はっとしたように前に向き直った。



ア、アスランの笑顔なんて、見慣れてるはずなのに・・・。

なんで、こんな・・・?



右手で、ざわめく胸をおさえ、キラは自問する。

と、そこでデュランダルの声が耳に届いた。



「ボギー1か・・・。

 本当の名前は、なんと言うのだろうね。

 あの艦」

「は?」



デュランダルは、正面を見たままだ。

だが、アスランにはそれが自分に話しかけられてるとわかったらしい。

それだけ見てとり、キラは顔を戻した。



「名はその存在を表すものだ。

 ならばもし、それが偽りだったとしたら」



ぎくりと、キラの体が強ばる。

その言葉が、アスランに向けられていることは、彼女にもわかった。

だから、それを肯定するような身振りはしてはいけないと、そちらを向きたい気持ちを抑える。



この人は、知っている・・・。

そう、知らないはずが無いんだった。



キラとアスランとでは、立場が違った。

彼女は地球軍に所属し、MIA認定され、さらにはその軍から存在そのものが消されている。

彼らにとって、コーディネイターであるキラの名を残したくなかったのだろうが、それは彼女にも幸いした。

オーブにおいて、キラ・ヤマトが、それも女性として生存していようと、軍に関わる必要が無いということである。

それに対して、アスランは違った。

もとより、パトリック・ザラの嫡男、そしてプラントの歌姫ラクス・クラインの婚約者として知れ渡っている。

その彼が、ラクスとともに当時のプラントから離反したことは、違えようのない事実だった。

名を変え、オーブへと籍を移していること。

評議会のメンバーであれば、当然知っているだろう。

まして、デュランダルは議長という任にあった。



「それが偽りだとしたら。

 それはその存在そのものも偽り。

 ・・・ということになるのかな?」



我慢できず、キラはデュランダルを睨む。

デュランダルの意図は明らかだった。



「アレックス・・・。

 いや、アスラン・ザラ君?」



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