no title - 10


キラは女の子です


「あの、医務室を空けてしまっていいんですか?」



ライラについて歩きながら、キラは気になったことを口にする。



「いいの、いいの。

 あまり使わないんだ。

 一番、怪我人が多く出るのは格納庫の辺りだからね。

 あっちにも施設があるんだよ」



こっちは、病人と重傷者が使うのだと、ライラは答えた。

艦の中央部にあるので、安全度が高く、しかし利用し難い。

そう教えられ、はぁと頷いたキラは、ハタと気付いた。



「私、格納庫で気を失ったんじゃ・・・?」

「ん?そうらしいね。

 でも、艦には兵士達が運ばれてきていたから。

 そんなところに、民間人の娘さんを寝かせられない」

「・・・お気遣い、ありがとうございます。

 それで、私達はどこへ向かっているんですか?

 なんだか・・・」

「艦橋だよ」

「艦・・・って」



キラは目を丸くし、足を止める。

てっきり普通の居住区へ行くと思っていたキラは、驚きで固まり、ついで恐る恐る訊いた。



「今、艦橋、って言いました?」

「言った。

 それがどうか?」

「あ、だって、私はザフトどころかプラントの人間でもないんですけど」

「もちろん、わかっているよ。

 ・・・ああ、気にしなくていいよ。

 ほんとに艦橋に入るわけじゃないから。

 すぐ横に部屋があるんだ」



***



キラは通路からオープンになった部屋に残され、医師を見送る。

座り心地の良い椅子に座り、キラはその背もたれに頭を預けた。

天井を見上げ、ため息を吐く。



「なんか、結局同じ事の繰り返しなのかな?」



キラがそう呟いた時、若い女性の声が艦内に響いた。



『敵艦捕捉!距離8000。

 コンディションレッド発令。

 パイロットは搭乗機にて待機せよ!』



ビクッと。

体が反応する。

跳ね起きようとして、すぐに体から力を抜いた。

部屋の中を見回す。

殺風景なそこは、どうやらミーティングに使われるらしく、巨大なスクリーンが備え付けられていた。

通信機もあるが、彼女が勝手に弄るわけにはいかず、そして部屋を移動するわけにもいかない。

これからこの艦が、戦闘をするだろうことがわかっても、キラには何も出来ないのだ。

だから、努めてそれ以外のことを考える。



デュランダル議長に、オーブに連絡をつけてもらって。

でも、戦闘を続けるなら、無理なのかしら?

ううん。

アークエンジェルは、追われる立場だったから、大変だったんだから。

追う側のこの艦は、プラントと連絡可能な、はず。

まぁ、戦闘空域を抜けていれば、だけど。

ああ、それより。

アスラン、無事よね?

カガリも、アスランがいるから、きっと大丈夫。

・・・私が居ないことに気付いたら、心配かけちゃうな。

馬鹿みたい。

心配して、駆け回って、逆に自分がこれじゃ・・・。

カガリ、怒るよね、絶対。

人のことより、自分のこと、心配しろ!って。

アスランは・・・。



そこまで考えたところで、人の気配にキラは顔を上げた。

と、その顔が驚きに彩られる。



「キラ!」

「カ・・・っ」



部屋に駆け込んできたカガリが、椅子から立とうとしたキラに飛びついた。

その勢いを支えることが出来ず、キラはカガリを抱えて、反対側に転げ落ちてしまう。



「きゃっ・・・痛いっ」



カガリに強く抱きしめられ、その上、落ちた衝撃も加わって、キラが盛大に呻いた。

それでやっとキラが怪我人であることを思いだしたカガリが焦ってキラの上から退こうとする。

だがその前に、カガリは誰かに肩を強く掴まれ、キラから離された。

アスラン、だった。

彼は床に跪き、左腕を庇っているキラを、そっと抱き起こした。



「キラ、大丈夫か?」

「・・・っ、え、ええ」



少し荒くなった息を整え、キラはなんとか返事をする。

自分を抱くその腕に安堵を憶え、ふぅと息を吐いてから相手を見上げた。

顔を見ずとも、たとえその声を聞いていなくても、キラにはそれが誰なのか、すぐにわかった。



「アスラ・・・。

 アス、なんで?

 どうして、2人がここに?」

「キィラ?

 最初に言うのが、その言葉かい?」

「・・・ごめん」



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