no title - 09


キラは女の子です


「誰!?

 ・・・っ痛っ」



キラはがばりと身を起こし、途端痛そうに自分の左腕を庇うように身を縮める。

怪我を失念し、その腕で体を支えようとしたのだ。

バランスを崩し、そのままベットの左側に落ちそうになる体を、ライラが慌てて捕まえる。



「気を付けなさい」

「・・・あなた、は?」

「私は医者だ。

 君は怪我人。

 その腕、骨には異常無いが、しばらく使わないようにな」

「は・・・い」



呼吸を整え、ライラと室内とを窺い見たキラに、ライラが質問した。



「さて、状況はわかる?」

「状況・・・?

 ここはどこですか?

 確か、私は議長を艦に降ろして、それで・・・?」

「ああ、良かった。

 ちゃんと憶えているみたいだね。

 頭は打ってないようだったけど、ちょっと心配だったんだ。

 君はモビルスーツから落ちたんだよ」

「・・・え?」

「ここは、ミネルバの医務室。

 ミネルバってのは」

「新造艦?」

「そう」

「あ、じゃあ、早く降りないと。

 すみませんでした」



痛む腕を庇いながらも、素早い動きでキラが立ち上がる。

そのままスタスタと歩き出す彼女を、ライラは慌てて止めた。



「待ちなさい!」

「はい?」

「降りられないよ、今は」

「・・・って、どういうことですか?

 私は、人を探しに行かなくちゃなりません。

 早くしないと」



ライラはここで、やっとキラに肝心な話をしていないことに気付く。

慌てて、今の艦の置かれた状況をざっと説明した。

キラの顔色が、変わる。



「宇宙?

 この艦、宇宙に?

 ・・・そういえば、この感じ」



その使用法上、医務室の重力はきちんと1Gに設定されていた。

けれど、所詮、艦内の擬似重力である。

地球上はもちろん、プラントで感じる重力とは違った。

普段のキラならすぐに気付いたであろう。

今は意識して、やっとライラの言ったことが事実であると実感した。



「えっと、つまり・・・。

 あの奪われた機体を追うためにこの艦は出たんですね」

「そう聞いている。

 詳しくは知らないがね」

「では、アーモリーワンはどうなりました?

 無事、・・・ですよね?

 崩壊したり、なんて・・・」

「崩・・・って。

 そう簡単に壊れやしないよ、プラントは」

「大丈夫、なんですね?」

「ああ。

 だから、君の方が探されているかもしれないな」

「そうですね・・・。

 でも、良かった、プラントが無事で」



キラが、ほっとしたように微笑む。

その笑顔が少しばかり哀しげだったので、ライラは思わず訊いた。



「そんなに、気になる?

 君は、オーブに住んでいるのだろう?」

「え?

 あ、はい、オーブから来ました」

「それで、そんなに気にしてくれるとは」



質問の意味が分からず首を傾げたキラに、ここでやっとライラの言いたいことが通じる。

ああ、と頷き、キラは憂いを濃くした。



「私、前はヘリオポリスに住んでいたんです」

「へリオ・・・!」



それだけで、ライラには得心がいく。

戦時中のことゆえ、プラントの一般人にはあまり知られなかった事実。



「あんなの、もう見たくありません」

「見た・・・の?」

「ええ、目の前で」

「そうか・・・」



沈痛な面もちになるライラに、キラは好意を抱く。

変に謝られたりしても困るのだ。

それきり黙り込んでしまった彼女に、キラから今後の事を訊く。



「それで、私はどうなるんですか?」

「ああ、そうだった。

 君が起きたら、議長のところへ案内するように言われていたんだよ。

 歩けるようなら、ってことだが」



言葉を切ったのは、今さっき、キラが平気な顔で歩いていたからだ。



「では、お願いします」



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