no title - 06


キラは女の子です


「君は、軍人なのかね?」



狭いコックピットの中、体格のいいデュランダルが立っているはかなり苦しい。

しかし、彼にモビルスーツが操縦出来ない以上、キラがシートに座るほかはなかった。



「そんなんじゃ、ありません。

 それより、着きました。

 ここでいいですか?」



デュランダルの疑問は当然だったが、キラ自身が厭う過去を話す義務はない。

言葉少なに答え、ザクを屈ませた。

その足下では人々が右往左往しているが、知ったことではない。

今のキラには、あまり周りに気を配る余裕がなかった。

デュランダルにはああ言ったが、服の下に負った怪我が、かなり痛む。

それでも命に関わるほどではないこともキラにはわかっていた。

だから、彼女はカガリとアスランの安否を確認することを優先するために、デュランダルを利用しようと思う。



「その手に乗ってください」



彼を降ろし、キラもラダーで地に降り立った。

足がふらつきそうになるのを気力で保たせ、キラはデュランダルに歩み寄る。

彼は既に、そこにいた政府か軍かの幹部らしき人々に囲まれていた。



「議長」

「すまない、助かったよ。

 君は早く避難を」

「いいえ。

 それより、アスハ代表の所在を確認してください」

「あの方は、議長と同行なさっていたのでは?」

「・・・こちらに、避難してきていないのか?」

「いいえ。

 誰か、お見かけしたか?」



デュランダルを囲む1人が周りに呼びかけるが、皆、首を振る。



「馬鹿な」

「どこで、情報を得られますか?」



***



再び、ザクはキラとデュランダルとを乗せ、今度は新造艦のミネルバへと移動していた。

キラの顔色はだんだんと悪くなっていたが、モニターの様々な光に照らされ、それをデュランダルに覚らせない。



「君は、シェルターに入るべきだったんじゃないかな?」

「それは、私が決めることです。

 お気遣いなく。

 2人の無事を確認出来ないまま、1人で避難なんかできませんから。

 それに・・・」



キラは言いかけて口ごもった。

唇が震えてしまい、言葉が続かない。



「それに?」



あの兵士・・・実戦など経験したこともないだろう少年の、嬉しそうに話す姿をキラは思い出さずにはいられなかった。

キラがデュランダルを庇えたのは、経験からくる勘が危険を教えてくれたとしかいえない。

そしてあの位置関係では、キラは一番身近にいた彼にしか、手が届かなかった。

だから仕方なかったのだと、頭ではわかっていても、運命を呪わずにはいられない。



「・・・彼らが生きていれば、あなたを守ったでしょう。

 せめて、安全な場所まで、お連れします」



***



ザクから降り立つデュランダルに、そこで作業していた兵士や整備士は、突然のVIPの登場に浮き足立った。



「議長!?」

「いったい、どうして!?」

「騒ぐな。

 他の者も後から来る。

 君はどうする!?」



上・・・モビルスーツのコックピットを振り仰ぎ、声を上げるデュランダルに、周りの者達も視線を上げる。

そのいくつもの目が、見開かれた。

跪いたザクのコックピットハッチの上から、私服姿の、華奢な少女が見下ろしている。

だれもが、そこには軍のパイロットが乗っていると信じ込んでいたので、皆、驚きに声も出なかった。

しんと静まりかえった艦の格納庫内に、デュランダルとキラの声が響く。



「彼らの居場所を特定してください。

 分かったら、そちらへ行きます」



キラは既に、デュランダルからこのザクの使用を許可してもらっていた。

こうして安全に彼を運んだ、代償のようなものである。

彼女が部外者である以上、用が済めば艦を降りなければならず、その彼女の安全のための特別措置だ。

実際、あの付近にその時、モビルスーツのパイロットがいなかったというのも理由の一つだろう。

戦力として使えたならば、キラに自由にさせるわけがなかった。



「・・・わかった。

 では、君も一度降りてくるといい」



キラの返事を待たず背を向けるデュランダルだったが、背後で起こった怒声を含む騒ぎに、すぐさま振り向く。

ザクの足下に、周囲の人間が群がっていた。

ふと顔を上げると、そこにいたはずのキラがいない。

整備士の1人が、担架を、と叫ぶのを聞き、彼女が上から落ちたらしいことがデュランダルにも知れた。



*** next

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