no title - 03


キラは女の子です


「キラも、すっかり元気になったな。

 まさか、自分から宇宙に出ると言い出すなんて思わなかった」



時は少し戻って。

プラントに着く前、艦の中でのこと。

アスランを前に、カガリは嬉しそうに話す。

大戦後、カガリが強引に、キラとアスランとをオーブに連れてきた。

口を動かしながらも、カガリは手元のモニターに映し出される、会談に必要と思われる資料に目を通している。



「宇宙どころか、軍や兵器に関わる場所にも近寄らなかったのにな」

 

憔悴した様子のキラに、しかしカガリは何も出来なかった。

だが、目を離すのも心配で、自分と、そしてアスランの身近にいられるようにと。

その為に、カガリの秘書という仕事をキラにさせた。



「・・・アスラン?」



返事を返さないアスランに気付き、カガリが顔を上げて問う。

だが、彼はなんでもないと首を横に振っただけだった。

怪訝そうなカガリに構わず、アスランはキラを想う。



元気になってきたのは確かだが・・・。

いや、それでも。

笑っている方が、いい。

いつか、それが本物になる。

これも、良い切っ掛けとなるかもな・・・。



***



「他の方々を置いてきて良かったのでしょうか?」

「あら」



後ろを肩越しに振り返りながら問う少年に、キラは微笑む。

先ほどまでしていたサングラスは、既に外してあった。

もともと、カガリとよく似たその顔、そして印象的な紫色の瞳とを隠す目的のもの。

本来なら常に掛けていなければならないはずだった。

しかし、随員として要人に付き従う時ならともかく、それ以外では逆に悪目立ちする。

そう思って素顔を晒したキラだったが、お陰でとても行動がし易くなった。

今、キラを案内するこの少年が、キラが笑むたび、彼女の意に添おうとするのである。

そんな相手の反応にキラは首を傾げながらも、あまり深く考えなかった。

とても協力的で助かる、と思う程度である。



「平気です。

 彼らには、彼らの役割があります」



キラ以外の随員達は、揃ってキラを引き留めようとした。

当然である。

彼らはカガリに従う者で、キラの素性についても、ほぼ知られていた。

彼女がいかに、カガリと、そしてアスランとに大切にされているか。

そして、彼女に何かあれば、大変なことになるだろうことも。

せめて同行させてくれと言われたが、キラがすっぱりと断った。

その際、キラはいろいろと理屈を述べたが、本心は別にある。



「これは、私の私的な興味ですもの。

 皆に、迷惑は掛けられません。

 ああ、あなたには、ご迷惑ですわね」



これも、本心では無かった。

こうして、この施設内を見て回るのは、後々、役に立つかも知れないから。

同行を拒んだのは。

はっきり言えば、足手まといだと思ったからだ。

オーブにはコーディネイターもいるとはいえ、その割合はとても少ない。

今回の随員中、コーディネイターなのは、アスランとキラの2人だけだ。

もし万が一、アクシデントがあったとしても、キラ一人ならなんとかなるかもしれない。

少なくとも、キラに他人を庇うほどの力があると、自惚れてはいなかった。

もちろん、そんなことが起こっては困るのだが。



「迷惑だなんて、とんでもありません!

 御案内出来て、光栄です!」

「・・・ありがとう」



頬を上気させ、勢い込む少年に、キラは苦笑を噛み殺して礼を言う。

添えられた微笑みに、彼はさらに顔を赤らめた。



***



「あれは、何です?」



ガラス越しに、外に立ち並ぶ建物の群を指し、キラが問う。



「ああ、あれは。

 モビルスーツの工廠です」

「・・・こんなところに?」

「もともと、このプラントは、軍事関連施設なんです。

 開発から、メンテナンスまで。

 ですから、ミネルバもここで建造されたわけです」



軍事・・・。



「そう・・・、え?ミネルバ?」

「今回の主役です。

 最新型の、素晴らしい艦ですよ。

 乗員も、優秀な人材を揃えられているそうです」



胸を張り、誇らしげに話す少年の言葉には、憧れも多分に含まれていた。

キラより1〜2才下と思しき彼は、一時、キラの存在を忘れたように遠くを見る。

その視線の先には、小さく、新造艦であるミネルバがあった。

だがキラは、そんな遠くにあってよく見えないものには興味が無い。

地面よりかなり高いのか、ここからは工廠の大きなドーム型の屋根ばかりが見えた。



まだ、戦う力が必要なの?



キラは、漏れそうになるため息を堪える。

と、次の瞬間、キラは息を呑んだ。



*** next

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