no title - 02


キラは女の子です


「アスランは私の同行を反対しなかったわね」

「して欲しかったのか?」

「まさか」



ソファに座るアスランへと歩み寄り、キラはポスンと沈み込むようにその横に腰掛ける。

戦後に作られたプラント・アーモリーワン。

そこへと向かう艦の中、キラはアスランと2人きりで話す時間がとれた。



「だが、賛成もしていないよ」

「・・・でしょうね。

 うん、わかってるのよ。

 カガリが反対したのは、私のため、でしょ?

 同じ理由で、アスランに負担が掛かるのも、そう。

 だけど、心配しているのは、私も同じよ。

 よりによって、アスランがプラントになんて。

 アスランは、有名人の自覚ある?」



大戦当時の最高評議会議長、パトリック・ザラ。

その嫡男でり、プラントの歌姫と呼ばれたラクス・クラインの元婚約者。

もとより、プラント中に知れ渡っているアスランだ。

そして戦時中にパトリックにより拘束され、脱走している。

特に軍関係者には、アスラン・ザラは複雑な存在だった。

だからこそ、アスランがオーブにいることは、プラントでは暗黙の了解となっている。

と言っても、政府や軍の上層部の、さらにごく一部の者には、だ。



「だから、偽名を用意しただろう。

 オーブの正規IDだ」

「アレックス・ディノ。

 名前は違っても、アスランの顔だって知られているんじゃない?

 私と、違ってね」

「それだが・・・。

 キラも偽名にすべきだった」

「なんで?

 私のこと、知ってる人なんて、ごく一部じゃないの。

 その上、みんな男だって思ってるのよ。

 そうと知らずに、同一人物だなんて思うものですか。

 ヤマト秘書官って呼ばれている女が、ね。

 アスランもカガリも、他の人も。

 キラ・ヤマト、って呼ばないでしょ?」

「・・・キラも、俺を呼ぶ時には気を付けろよ」



言われた途端、キラが目を彷徨わせる。



「キラ?」

「あ、うん、そうね。

 気を付けるわ。

 ・・・でも、もっと違う名前、無かったの?

 言いづらい」

「どんな名なら良かったんだ?」

「・・・どれも、イヤ。

 そうね、アス、って呼んでもいいかな?

 それなら、なんとか」

「好きにしろ」

「うん、好きにする」



キラは笑顔で頷いた。

よほど、アレックスと呼びたくなかったらしい。

とても嬉しそうに綻んだ顔が、しかし次には強ばった。



「アスランは、今度のこと、どう思ってる?」

「言っただろう。

 俺は口を挟まない」

「わかってる。

 だから、アスラン個人の意見として、よ。

 私は、無謀だと思う。

 もう、2年。

 移住した人も、それだけ経てば、もうそれぞれに生活が確立してる。

 オーブに、地球に戻る気があれば、自分で帰って来ているでしょう。

 議長だって、カガリの要望を呑むとは思えない」



戦時中に流出した人材の返還。

それはオーブがかねてよりプラントに申し出ていた事だ。

その返答が芳しくなく、カガリは直に会って話すと言う。

人材、というと言い方が悪いだろうが、カガリは、自身の国民への責務と考えていた。

それがわかっているから、キラも面と向かって反対出来ない。

そしてキラは、自分の知識や経験が足りないことを自覚していた。

アスランに、それが備わっていることも承知している。



「どうなるにしろ、カガリには必ずプラスとなるものがあるだろう。

 代表として、経験を積むいい機会だ」



きっぱりと言い切るアスランの肩にキラは額を乗せ、気を付けてねと呟いた。



***



「行ってくる」

「お気をつけて、アスハ代表。

 アス、お願い致します」



議長のもとへは、随員は一名に。

そう言われてしまえば、アスランに任せるしかなかった。

キラの言葉に、アスランが微かに頷き、カガリと共に出ていく。

キラは、他の随員達と共に、別室へと案内される。



「とても、人が多いんですね」

「はい、新造艦の進水式ですので。

 軍関係者以外にも、一般の招待客が数多く来ております」



接待役の1人、どうやら軍人らしい年若い青年・・・というより少年は、キラに話しかけられ、嬉しげに答えた。



「そんなに?

 いいですね、私も見てみたいものですけど」



残念そうなキラの様子に、彼は同情したらしい。

式典の行われる会場を、と誘われ、キラはにこやかに立ち上がった。



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