誰がために−69


キラは女の子です


「それにしても、隊長も人が悪いですね。

 僕ら、キラさんを直接知っているんですから、教えてくださってもいいでしょうに」



ああ、アスラン、あなたもですよ、と。

やや拗ねたような目をするニコルに、アスランは苦笑で答える。



「しかし、じゃあ。

 まだ知っているのは、僕だけなんですか?」

「そう・・・、あ、いや。

 そういえば、ラスティにはキラが残りたいと言っていると。

 だが、実際にこうなったことは伝えていない」

「ふぅん、そうなんですか。

 ラスティは、ご存じなんですね」



勝手に断言し、ニコルは顎に手をあてながら、ぶつぶつと呟きだした。



「まったく、あの人も・・・。

 ちょっと教えてくれたって・・・。

 機会が無かったわけでもないのに・・・」



ふと、ニコルがキラを見やる。

アスランと顔を見合わせていたキラは、その視線に小首を傾げた。

ニコルはそのまま横に立つ同僚を見ると、彼はキラを愛しげに見つめている。

もう一度キラに目を向け、にこりと笑いかけた。



「イザークやディアッカも、こちらに来ているんですよ。

 せっかくですから、今から行ってみませんか?

 そろそろ格納庫に着くころだと思うんです」

「え?ですけど・・・」



伺うようにアスランを見て、キラは困ったような顔をする。

アスランは、ニコルの言葉に眉を顰めていたのだ。

なにぶん、キラは軍規についてはほとんど知らない。

最低限、してはならないことをいくつか注意されているだけだ。



隊長さんが、明日って言ったのだけど。

先に言ってしまっていいのかなぁ?

アスランがこんな顔するなら、まずいのかな?

でも・・・。



「どのみち、キラさんがここにいるのを見れば、ばれますよ。

 いや、直接会わなくても。

 乗員は皆、キラさんを見知っているんですよ。

 断言しても良いです。

 この後、キラさんが会う乗員から、あっという間に話が広がります。

 ね、ですから」

「確かに、それこそなぜ黙っていたと言われそうだな」

「そうですよ」



それに、僕の知らないところで驚かれても楽しくないですよ。

やっぱり、目の前で、ね。



内心は面に出さず、善意、を強調するニコルにキラも、そうですね、と返す。

じゃあ、と手を差し伸べかけたニコルは、すぐに手を引っ込めた。



「アスランも、行きますか?

 行きますよね?」

「ああ」

「それでは、早速。

 誰かに見られる前に行きましょう!」



***



パイロット待機室で、アスランを除く2人は格納庫をガラス越しに眺める。

特にニコルは、きょろきょろと目当ての機体を探した。

キラもその横で見知った相手を探しながら、緊張したように、少々身を固くしている。

アスランは1人だけ腰掛けたまま、キラが先ほどまでの悲しみを忘れているように思えて、微笑んだ。



「あ、いました!

 イザークですよ。

 デュエルだけ先に来たんですね。

 ディアッカとラスティはまだのようです」

「えぇと、・・・ああ、ほんと」

「さぁ、ではセッティングしましょうね」

「・・・は?」



キラさんはこっちですよ、と。

ニコルがキラの背を押し、通路への扉の傍へ立たせる。

通路からは見えず、部屋に入ればすぐに目に入る場所だ。

戸惑うキラそっちのけで、ニコルは楽しげである。



「アスランは、そのままでいいですよ」



アスランは、扉に背を向けるように座っていた。

イザークが入室する時、とりあえず彼に視線がとられるだろう。

いつも通りなら、無視するように顔を逸らすはずだった。



「・・・楽しそうだな」

「やだな。

 アスランは、僕を誤解していますよ。

 ねぇ、キラさ・・・、じゃなかった、キラ」

「えと、こんな風にして、怒りませんか?

 イザークさんが。

 他の人も、ですけど」

「平気ですよ」



まぁ、怒るとしたら、ラスティ相手にしてもらいますしね。



くすくすと笑うニコルに、わからないながらもキラも笑みを浮かべる。

果たして。



「・・・乗り損ねたのか?」



キラを見たイザークの第一声は、これだった。



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