誰がために−68


キラは女の子です


「アスラン、お別れは済み・・・」



ニコルが、気遣いを感じさせながらの言葉を途切れさせる。

アスランを前に、その腕の中にいる人に気付き、目を丸くした。



「・・・キラさん!?」



頓狂な声を上げ、ニコルは次に、あれ?と首を捻る。

先の戦闘後、アスランとラスティ以外のパイロットは、その機体ごとガモフにいた。

その後ラスティも途中から合流し、彼らは拿捕した地球軍の戦艦と捕虜とした兵士達相手の任務についている。

しかし、本日、ヴェサリウスに収容されていたヘリオポリスの民間人達がオーブへと渡された。

今度はこちらの艦の方が余裕が出来たので、パイロット達がまた移動することになったのである。



「その、彼女はどうなさったんです?

 ・・・シャトルに乗り損ねたというわけでは」

「ない」



アスランは、顔に手をあてているキラを抱えるように歩いていた。

ニコルの声に身動きするキラに、アスランはその腕を緩める。

キラは正面に位置するニコルに背を向け、話をするアスランの陰で顔を拭いた。



「じゃあ、彼女が軍に?

 ・・・そうですか」



背を向ける軍服姿のキラを、ニコルは無言で見つめる。

やがて振り向いたキラの赤くなった目を見て、柔らかく微笑みかけた。



「よろしく、キラさん」

「こ、こちらこそ。

 ・・・気を悪くなさらないといいんですけど」

「気を?なぜです?」

「私・・・。

 皆さんのように、訓練も、専門の技術も身に付けてはいないから。

 そんな私が、皆さんと同じ艦で・・・」

「そんなこと、気にする人は、いませんよ!

 キラさん、気にし過ぎです。

 むしろ、貴女がいてくださるなら、喜ぶ人はたくさんいますよ」



ほんとうかしら?と。

そう口にしようとしたキラだったが、アスランに先を越される。



「どういうことだ?」



地を這うような低音を発するアスランに、キラと、そしてニコルの目が向けられた。

斜め後方に立っているキラは、アスランの顔が見えない。

前に回ろうとしたが、アスランの腕がキラの前に伸びた。

それでも微かに見える彼の横顔と、ニコルの顔とを交互に見やる。

ニコルが、顔を引きつらせて一歩下がる。



「いや、それは。

 ・・・困ったな」



言葉通り、ニコルはそわそわと落ち着かない様子を見せた。

それでも、黙って待つアスランをチラッと見た後、ちょっと俯いて息を吐く。



「そんな、アスランが気にするほどの話じゃないんです。

 まぁ、ほら。

 彼女のこの容姿ですから」



ニコルが視線をキラに向ければ、彼女はキョトンと見返した。

アスランも自分を見ていることに気付き、キラが首を傾げる。



「私が、何?」

「いや、なんでもないよ。

 ・・・それで、ニコル?」



まだ言わせるんですか?と目で問うニコルに、アスランは黙して頷いた。



「どうしても、聞きたいです?

 聞いても、怒らないでくださいね?

 いいですね?

 約束ですよ?」



アスランがわかったと言うのをくどいほど確認し、やっとニコルが口を開く。

曰く、整備班の間で噂に上っている、と。

目の保養、職場の潤い。

なかには、まぁ、かなり本気になる人も・・・。



「あ、言っておきますけど、ほんとに心配いらないですから。

 あなたの、っていうのもちゃんと知れ渡ってます」

 

聞きながら目つきを鋭くするアスランを、ニコルは宥めた。

そして内心、付け加える。



キラさんがいると、僕らの・・・。

というか、あなたとイザークの騒ぎが起きないんじゃないかって期待が大きいんですよ。

中には、アスランの今までにない様子を面白がっている人間もいますしね。



「それより、キラさんはいつから?」

「あの、その『さん』付けは、止めて下さい。

 ・・・それじゃあ、いつまでもお客みたいです」

「そう、ですね。

 わかりました」



了解したと頷くニコルには、アスランが答えた。



「明日、皆に紹介してくれるそうだ。

 訓練を受けていない以上、しばらくは艦内の細々したことをすることになる。

 あと、必要ならモビルスーツの整備の手伝い、だろうな」



*** next

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