誰がために−67 | ||
キラは女の子です | ||
「ほら、見るといい」 クルーゼの指し示す先には、シャトルへと乗り込む数十の人影がある。 ザフトの兵士達に導かれる彼らは、遠目にも安堵の表情が見て取れた。 「君達が、もしかしたら死なせていたかもしれない人々だ」 「・・・もう、結構です」 格納庫を見下ろすその部屋には、クルーゼと、兵士に引き立てられたマリューがいる。 一度は彼らを見た彼女も、すぐに背を向けた。 「目を逸らしても、現実は変わらない。 それに、君に見て欲しいのは、彼らのことだけでは無いのだよ」 これ以上、なにを?と。 マリューは苦渋を隠さずに、クルーゼを見た。 仮面に覆われたその顔で唯一窺えるその口元は、相変わらず笑みをたたえている。 「よく、見てみることだ」 既にもう、マリューは暗い気持ちでいっぱいだ。 クルーゼの笑みを見るたび、彼女の心は重く沈んでいく。 それでもともう一度下を見ると、そこでは異様な・・・マリューが首を傾げてしまうような集団だった。 遠目でよくはわからないが、その体格からすると十代の少年少女と見える。 私服の数人は、昨日、彼女が会った学生たちだろうと思った。 問題は、彼らが順番に、軍服姿の兵士に握手をしたり抱きついたりしていることである。 彼らを除き、他の民間人達は足早にシャトルへと向かっているだけに、マリューは違和感を憶えた。 *** 「キラ、ほんとに残るのか? わかってるのかよ? これ、軍艦だぞ」 軍服姿で立つキラを前に、トールはぐずぐずと言う。 「わかってるわ」 「戦争なんて、嫌いだって言ってただろ?」 「言ったわ。 今だって好きなんかじゃない。 でも、決めたの」 「だけど・・・」 「トール。 心配してくれてありがとう」 キラの浮かべた綺麗な笑みに、トールが一瞬目を奪われた。 すぐにはっとして、目を逸らす。 慌てたように、横に立つミリアリアをつついた。 「ほ、ほら、ミリィ」 「・・・グス・・・わ・・・ってる・・・よ」 「泣き止めって」 「・・・ック・・・って、止ま・・・いんだもん・・・ック」 「とにかく、ほら」 トールに背を押され、ミリアリアとキラが間近に向き合う。 重力が極めて低いために浮きそうになるミリアリアを、キラが支えた。 「ミリィ・・・」 「・・・っ」 キラは、既に覚悟を決めている。 それでも、目の前でこんなに泣かれると、胸が熱くなり、キラの目も潤んできた。 だが、それを振り切るように、キラはミリアリアの肩を抱きしめる。 「大好きよ、ミリィ」 「わ、・・・たしだって、好き、だもん」 「うん、知ってる。 私の、・・・大切な友達」 「違う、でしょっ」 ミリアリアはキラの背に腕を回し、ぎゅっと強く抱きついた。 「わ、私達、は、親友、なんだから、ねっ。 ただの、友達じゃあ、ないのっ。 ・・・それとも、私だけ?」 くぐもった声で小さく付け加えられ、キラは急いで否定する。 そんなわけ、ないでしょ、と。 「必ず、また、会うんだから、ねっ。 忘れ、・・・忘れるんじゃ、ないから、ねっ」 そのまま、いつまでも話していそうなミリアリアを、トールは仕方なさそうにキラから引き離した。 シャトルへの、民間人の収容がほぼ終わり、彼らを残すのみとなっている。 キラとの別れを惜しむ学生達を、シャトルの搭乗口に立つ兵士2人がもの言いたげにしていることに、トールが気付いたのだ。 どうも、キラの傍らに立つアスランに遠慮する様子である。 「キラ、元気で」 「ええ、サイも。 ・・・フレイにも、よろしく伝えて」 「ああ。 ・・・すまなかったな。 あいつが、あんな偏見持ってるなんて、知らなかったんだ」 「・・・私も、知らなかったもの。 それに、普通じゃない状況で、フレイも普通じゃなかったんだと思う。」 笑顔で見送るキラを何度も振り返りながら、彼女の友人達はシャトルへと乗り込んだ。 「キラ、中に入ろう。 ・・・もう、泣いてもいいよ」 「・・・っ、・・・くっ」 アスランに言われた途端、キラの笑顔は崩れ、その瞳から涙が溢れ出る。 口元を手で覆い、その場に崩れそうになるキラを、アスランは抱えるように格納庫から連れ出した。 *** next |
||
Top | Novel | |||||||