誰がために−65


キラは女の子です


「本気で、言っているのかね?」

「本気です」



クルーゼの私室に、アスランとキラはいた。

キラの決意を伝え、協力を得るために。

まずは、既定の知識や技術を身に付けていない彼女を、軍が受け入れるかが問題だ。

さらに軍属となれば、配置の希望が通るとは限らない。



「ふ・・・む。

 確かに、民間人が野戦任官という形で、軍に所属することは可能だ。

 だが、君はオーブ国籍だろう?」

「無理、なのですか?」

「・・・私個人としては。

 君が我が軍に入り、この艦の乗員となるのは、願ってもない。

 君の能力は、高く評価しているからね。

 しかし、だ」



言葉を切ったクルーゼは、手元のスイッチを操作した。

部屋の壁面に設置されたモニターが、ある映像を映す。

それは、見覚えのない艦だった。



「オーブ所属艦。

 我々がプラントへと向かう途中で、合流する。

 君達の、お迎えだ」



***



「今なら、まだ引き返せる」

「しない。

 アスラン、私はもう決めたの。

 そりゃ、私のために言ってくれてるのはわかる。

 わかるけど、でも」



もう、言わないで、と。

キラはアスランに微笑みを向ける。



「父さん達、無事だったのがわかったんですもの。

 安心して、ここに残れるわ」



こうして艦同士が接近し、かの艦から、キラの両親が既に地球に着いていることを伝えてきていた。

もちろん、他の人々の家族についても情報を持っていたが、特にクルーゼが問い合わせてくれたらしい。



「・・・おじさん達は心配するけどね」

「でも2人とも、私自身で選んだ道を、否定したりしない。

 きっと、ね。

 それに、アスランが一緒なんですもの」



オーブ艦は、このヴェサリウスに保護された避難民を地球へと運ぶのだ。

それにキラが乗らなければ、クルーゼがその処遇を引き受けてくれるという。

ぎりぎりまで、考えるようにと、言われた。

それは、キラに再考する時間を与えているようであり。

また、キラの覚悟を量っているようでもあった。



***



「キラ!」

「ミリィ」



私服のまま現れたキラに、ミリアリアは抱きつく。

嬉しそうに、ぎゅっと。

すぐに身を離し、満面の笑みを浮かべ、興奮したように話し出した。



「キラ、聞いて!

 みんな、無事ですって!

 お父さんも、お母さんも!」

「俺の家族も無事だった。

 キラの両親も、名前があったよ!」

「うん。聞いたわ。

 みんな、生きていてくれて、良かったね」



ミリアリアに話そうと1人で来たキラだったが、ちょっと間が悪かったようである。

ラウンジに集められ、家族の消息が伝えられている時だったのだ。

彼らだけでなく、誰も彼もが喜びに歓声を上げている。

しかし、ごく一部、まだ情報を得ていないらしい人々が、兵士達に詰め寄る姿もあった。

ふと、顔を巡らせたキラは、目当ての人物が見あたらず顔を曇らす。



「サイとフレイはどうしたの?

 まさか・・・」

「え?

 あ、違う、違う。

 サイの家族は無事よ。

 フレイは、ほら、お父さんだけでしょ。

 仕事で、もともとヘリオポリスにいなかったのよ。

 だから、迎えの艦が来るって聞くだけ聞いて、出ていったわ」



まだフレイに怒っているようだが、もともと面倒見の良いミリアリアは、突き放しながらも見るところはちゃんと見ていた。



「ああ、でも、ほんと良かった。

 明日には、オーブの艦が着くそうよ。

 やっと、帰れるわ!」

「ミリィの家、オーブにあるんだっけ?」

「そうよ。

 キラだって、あるって言ってたよね」

「うん。住んだことはないんだけど」

「ああ、月にいたんだもんね。

 地球もいいわよ。

 海って見たことある?

 きっと気に入るわ」



浮かれているミリアリアは、キラから聞いたことを忘れているらしい。

だから、キラが自分は当分見られないと言うと、え?と目を瞬いた。



*** next

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