誰がために−64


キラは女の子です


「アスラン、私・・・」



アスランと部屋に着くまで、キラはずっと黙っていた。

声を掛けられても、うん、とか、なんでもない、とか。

簡単に答えるだけで、何かをずっと考え込んでいた。

その表情は、悲しみや辛さをたたえたものではなく・・・。

部屋の前で、じゃあ、と去ろうとするアスランの上着の裾を、キラがはっしと掴む。



「私、ザフト軍に入れるかしら?」

「キラ・・・」



気負いなく、真顔で問いかけられ、アスランは呆然とキラを見つめた。

彼女が、いつかそれを言い出すだろうとは予測済み。

しかしそれは、もっと感情に彩られたものになると思っていた。

アスランはキラの背を押し、部屋へと入る。

通路で、話すようなことではないし、人に聞かれたくもなかった。



「ほんとは、ね。

 この艦、アスランの傍にいたいと思ったの。

 離れたくないし。

 次、いつ会えるかわからないでしょ?

 それに、会える保障も無い。

 アスランは危険な戦場にいるんですもの。

 私だって、いつ何に巻き込まれるかわからない。

 ・・・ヘリオポリスみたいに。

 だから、ここにいたかった」



キラは、ゆっくりと考え考え話す。



「今は、違う?」

「違うっていうか・・・。

 別の理由ができた、と思う。

 戦争なんて、早く終わってほしい。

 その為に、少しでも私に出来ることがあるなら」



どうかな?というように見上げられ、アスランも真剣に考えた。

彼自身の望みだけでなく、キラの気持ちを大切にしなければならない。

離れたくないは、アスランだって同じなのだ。

ヘリオポリスで再会した時、強引に彼女を連れてきたのが、なによりの本心。

躊躇うのは、そうするには問題があるからだ。



「戦争、嫌いだろう?」

「・・・ええ」

「俺達の敵は、地球軍だ。

 軍内には、ナチュラルは全て敵と言い切る人間もいる。

 その数は、決して少なくはない。」

「ナチュラルにも、同じことが言えるでしょう?

 中立国にだって、フレイのように言う人がいるもの」

「・・・そうだね。

 だけど、だからこそ。

 ご両親のことは、どうするつもりだい?

 会えなくなるよ」

「・・・わかってる!

 わかってる。

 ちゃんと、考えた。

 父さん達だけじゃない。

 ミリィ達にも会えなくなるわ。

 でも、それでも、よ。

 そこだけに限るなら、皆に会えないより。

 ・・・アスランに会えないことの方が、辛い。

 今、両親の安否を心配している私がいる。

 もしかしたら、って思ったりもする。

 だけど、ここから離れる気になれないの」

「だが」

「わかってる。

 それだけで、軍に入るなんて言わない。

 ・・・言おうとはしてたけど。

 出来ることを、するの。

 平和を望むのに、戦うのは矛盾してるわ。

 だけど、そう言ったところで戦争が終わったりしない。

 アスランだって、そうでしょう?」

「ああ、そうだ。

 だが、おじさんもおばさんも悲しませてしまう」



さすがに、キラは目を伏せる。



「それでも、軍に入る?

 戦争が、できる?

 ここに、いる?」

「いる。

 ただ、待つなんて出来ない。

 だって、私は」



不自然に、キラの言葉が途切れた。

アスランが、彼女を胸に抱き寄せている。



「愛している」

「アス、ラン・・・」

「誰よりも。

 キラだけを、愛している。

 キラがここにいてくれるなら、守る。

 キラだけは、絶対に守ってみせる」

「ダメよ!」



苦しいほど抱きしめられていた腕が、少し緩む。

アスランの胸に手を置いて、キラは体を離して彼と目を合わせた。



「アスランは、アスラン自身も守るの。

 私は、アスランがいてくれないとダメなのよ。

 忘れないで。

 ・・・私だって、愛してるのよ?」



返事の代わりに、アスランがキラと唇を合わせる。

深いキスは、キラの体から力を奪い、崩れそうになる体を、背に回ったアスランの腕が支えた。



*** next

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