誰がために−63


キラは女の子です


「いかがだったかな。

 彼らとの話は?」



クルーゼが言った。

ヘリオポリスの学生達は、既に退室している。

この場を設定したクルーゼが、話は十分と判断したからだ。

もっとも、フレイが喚いて話にならなくなったからでもある。

彼女だけ連れ出そうとするものなら、悲鳴を上げたりして大変だったのだ。

そうして空いた席に、クルーゼは座り直している。



「彼女だけ、残っているのはなぜなのかしら?」



そう言うマリューの視線は、クルーゼではなく、キラへと向けられていた。

相変わらず、少女の背後にはアスランが立っている。

先ほど、友人達と一緒に出ていこうとした彼女を、クルーゼが引き留めたのだ。

その際に、キラは躊躇う様子を見せたし、彼女の体に触れて添う兵士・・・アスランが微かに驚く様子も見せている。

クルーゼの一存によるものであるのは、明白だった。



「それとも、彼女は・・・民間人ではなかったの?

 ザフトの・・・?」



キラとアスランの親密度は、とても昨日今日の間柄には見えない。

マリューは当初、唯一同席するこの兵士はクルーゼの警護だと思っていた。

しかし、今、不安そうなキラの横に回ったアスランが彼女の手を握っているさまはどう見ても違う。

マリューにしてみれば、疑問に思って当然だった。

まさか、キラはザフトのために情報収集をしていたのでは、と。



「とんでもない。

 彼女は、正真正銘、中立国の民間人。

 君らの、被害者の1人だ」

「それは・・・!」

「コロニー崩壊のことだけではないのだよ」



クルーゼは思わせぶりに、間をおく。

そして、はっきりと言う前に、違うことを言った。



「地球軍は、オーブの協力で兵器開発をした。

 それは否定しないな?」

「・・・しようもないですわね」

「艦長!」

「あれだけ、派手にやったんだ。

 今さら否定できないって、少尉」



またも咎めるように叫ぶナタルは、次のフラガの言葉でそちらを睨む。



「地球軍は、モルゲンレーテと協力していた。

 それは、戦艦やモビルスーツだけでも十分な証拠となるのだよ。

 副官殿が認めようと、・・・否定しようと」

「それで。

 それが彼女とどう関わるのです?」



焦れたように、マリューが話を戻そうとした。

彼女は、実のところ後悔している。

ヘリオポリスが攻撃を受けた時から・・・正確にはそれが崩壊するのを目の当たりにした時から。

将軍の命を受け、開発を行うことは正しいと思っていた。

その為に、オーブの技術力を利用する。

だが、中立を保つその国を戦場にすることなど、彼女は予想もしていなかった。

こんな風に、平和に暮らす人々を巻き込むつもりなど、無い。

無かったはずなのに、と。

突き付けられる罪の意識が、無意識にその口調を強めた。



「彼女が、どうしたというのですか?」

「協力させられたのですよ。

 君達に」

「協力・・・、私達に?」



***



キラがどう関わることになったのか。

それを聞かされたマリューは、息を呑んでキラを見た。

キラは、俯いている。

クルーゼがやたらとキラを褒めてくれるのがいたたまれなかった。

そして、動揺もしている。

自分は利用されたのだと、一度は整理したつもりの気持ちがぶり返してきた。

アスランが、複雑な想いを抱えるキラの手を一際強く握る。



「知らずに協力した彼女に罪は無い。

 そう思わないかね?」

「ええ、・・・ええ、もちろん」

「ところで、彼女はここにいるアスラン・ザラと幼なじみなのだよ。

 そして、ご両親はナチュラル」

「隊長!」



クルーゼを、アスランが遮った。

通常であれば、上官に対して許される態度ではない。

だが、予測していたのか、クルーゼが咎めることはなかった。

それどころか、まったく態度を変えずにアスランを見返す。



「もうよろしいのではないですか?

 お話がそれだけであれば、キラの退室許可を」

「・・・よかろう。

 だが・・・、キラ・ヤマト嬢」

「は、はい!」



慌てて顔を上げたキラの目は潤んでいた。



「私も、我が軍も、君には感謝している。

 君の協力無くば、我々はこうも簡単には降伏させられなかっただろう。

 彼らは、圧倒的な戦力差に屈した。

 彼らの命を救ったのは、君でもあることを忘れないことだ」



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