誰がために−62


キラは女の子です


「もういいじゃない。

 その人達に言っても仕方ないでしょ、サイ」



妙に場違いな声が、睨み合う両者の意識を逸らす。

そこにいる全ての視線を集め、フフンと笑った。



「悪いのは、彼らじゃないわ。

 コロニーを攻撃した方が悪いに決まってるでしょ。

 ザフトが悪いのよ。

 コーディネイターなんだから」

「フレイ・・・!

 何を言うんだ!」

「ほんとのことよ。

 コーディネイターなんか、信用できないじゃないの」



フレイの、コーディネイターへのあからさまな偏見に、サイさえ諫める言葉を失う。

フレイ・・・、と名を呟くだけでやっとだ。

トールは、言っても無駄だと黙ってフレイを睨む。

ミリアリアは、キラを気遣わしげに見た。

地球軍の3人はというと。

マリューとフラガは眉を顰めた。

ナタルは・・・。



「何よ、何か言いたいの?

 あなたの言うとおり、ザフトのが悪いって言ってあげてるんじゃないの」



フレイに目を留められたナタルも、微かに顔を顰めている。

それを見て、フレイは心外そうな顔をした。



「あなただってそう思っているんでしょう?

 だから、コーディネイターと戦ってるんでしょ?」

「そ・・・れ、は・・・」

「ほら、そうなんじゃない」

「違うわ」



今度は、ナタルの代わりにマリューが口を開く。

ちらりと、クルーゼを伺いながら。



「私は、コーディネイターだから敵、とは思いません。

 被害を受ける弱い立場の人達を守りたいから。

 そのために、私は軍に入ったのです。

 あなたの、一方的な考えを押しつけないで」

「綺麗事はいいわ。

 戦争は、戦争でしょう。

 勝つために、敵を倒す。

 勝たなくちゃ、意味が無いんだから」

「もちろん、そうです。

 ですが、私達は、あなたに敵を決めてもらう必要はありません。

 滅ぼすために戦うのではない。

 守りたいものを守りきることが私達の」

「結局、こうして掴まってるんじゃない。

 そんな、甘いこと言ってるからよ」



無能、と言わんばかりのフレイに、マリューは言葉に詰まった。

その時、キラが言葉を挟む。

いつもより、やや低い声でゆっくりと。



「どうして、あなた達はここにいるんです?」

「どうして・・・って」

「降伏っていうのをしたんですか?」

「そういうことだ」



マリューの答えを待たず、クルーゼがキラに答えた。



「彼らは、我々の勧告に従って、投降した」

「あっさりと、ね」



言葉を付け加えたアスランを、キラは肩越しに振り返る。

無表情を装う彼から気遣いを感じたキラは、大丈夫と言うように微かに頷いた。

マリューへと向き直り、どうしても聞きたかったことを口にする。



「ヘリオポリスで、すぐに降伏しなかったのに。

 どうして今、そうしたんですか?」



キラの言いたいことに思い至り、マリューは目を逸らしてしまった。

フラガとナタルも、上を見たり、俯いたりしている。

自覚があるらしい彼らに、しかしキラの口は止まらなかった。



「そうできるなら、あの時にしてくれればよかった。

 そうすれば、コロニーが壊れることもなかった。

 あなた達が守るのは、ナチュラルの人達なのでしょう?

 あそこに住んでいたのは、ほとんどナチュラルよ。

 コーディネイターなんて、数えるほどしかいなかった。

 それでも、私達が安心してくらせる、大切な場所だったの・・・」



何かを覚ったように、フラガが目を見開く。

キラをじっと見た。



「君、コーディネイターか?」

「!」



マリューとナタルが、キラに目を向ける。

キラが、ちょっと身を引き、背後からアスランが腕をまわした。

彼の温もりに安心を得て、キラは一瞬強ばった体から力を抜く。

息を吐き、改めてフラガを見た。



「そうです」

「そうよ、その子」

「フレイ、いい加減にして!」

「なによ!

 ・・・なによ、ミリィもトールも、サイまで」



皆に険しい目を向けられ、フレイが怯む。

しかし口を噤んだのは一瞬で、すぐに喚きだした。



「キラの見た目がまぁいいのだって、そう作られたからなのよ。

 みんな、なんだってそんな子に構うのよ!」



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