誰がために−61


キラは女の子です


「ミリィ、トール、サ・・・」



開く扉の音にそちらを向いたキラは、ラスティの後ろから入ってきた友人達を見つける。

ちょっとほっとして、彼らを呼ぼうとしたその声が、不自然に途切れた。

サイの横に立つフレイの目がキラと合う。

じぃっと、観察するようなのその目で仰視され、キラが怯んだ。

それに気付いたように鼻で笑い、フレイはサイに腕を引く。

当然のように、キラが遠い椅子にサイと並んで座った。

俯いてしまったキラを見て、ミリアリアがいきり立って発そうとする声を、トールが彼女の腕を掴んで止める。

勢いよく振り向くミリアリアに、トールは首を横に振り、さらに目配せでこの場の状況を思い出させた。

トールが、ミリアリアの耳元で囁く。



「ミリィ、今はまずいよ」

「でもっ」



キラのためにも、ここでフレイにはっきり言いたいが、それで事態が悪くなる可能性もあった。

それにおそらく、キラはミリアリアがそうすることを望みはしない。

思い至って、ミリアリアは悔しそうに口を噤んだ。

代わりに、つかつかとキラに近づき、その横に腰掛ける。

キラの膝に置かれた手に、ミリアリアは手を重ねた。

キラが弾かれたように顔を上げる。



「・・・ミ」

「キラ」



にっこりと笑いかけるミリアリアを見て、キラは再び俯いた。

小さく、ありがとう、と告げる。

ミリアリアはそれへの返事として、キラの手をポンポンと叩いてから、横を向いていた体を正面に戻した。

キラの肩に、背後のアスランの手が乗せられる。

肩越しに振り返ったキラにアスランが笑みを向ければ、キラもまた微笑むことができた。



***



クルーゼはまず、ヘリオポリスの学生達を紹介していく。

各自のファーストネームと、民間人であること。

捕虜のことも、氏名と地球軍の士官であることだけしか言わなかった。

そのまま黙ってしまったクルーゼに、顔を見合わせていた彼らから、サイが代表するように口を開く。



「僕らに、この人達と何を話せと?」

「ごめんなさい」



サイの言葉を、女性の声が遮った。

マリューが、頭を下げている。

学生達は目を見張り、ナタルは咎めるように艦長、と怒鳴った。



「皆さんを、巻き込んでしまった。

 謝って、許されることでは無いけど」

「艦長、お止め下さい!

 それは、我が軍に非を認める言葉ととられます!」

「ナタル。

 比重はともかく、私達に責任が無いはずはありません。

 それに、これは軍人としてではないの。

 私は個人として、彼らに謝る義務があります」



顔を上げたマリューは、ナタルを諭すように言う。

マリューを挟んでナタルと反対側に座るフラガは、ため息を吐いた。

そのやりとりを黙って見ていたキラは、思い切って問いかける。



「皆さんは、何をおっしゃっているんですか?」

「・・・聞いていない?」

「ええ、何も。

 ただ、隊長さんが私達を皆さんに会わせたいとだけ」

「・・・そう」



マリューは、離れた位置に置かれた椅子に座る、仮面を付けた人物を見やった。



自分の口で言ってみろと、いうことなのね。



「私は、アークエンジェルの艦長です」

「艦長?

 艦長・・・って、え?」

「もしかして、それって、あの?」

「白い、戦艦!?」



ヘリオポリスの中を飛ぶ戦艦を、キラは見ていない。

艦長と言われてもピンと来ない彼女に代わり、トールとサイが反応した。

彼らの言葉に、キラも、そして話を聞いているミリアリアの2人も思い至る。



「モルゲンレーテで建造したという、あの戦艦の艦長なんですか?」

「そうです」

「じゃあ・・・、じゃあ、あなた達が、ヘリオポリスを!」

「黙れ!」



口々に言い立てる彼らを、ナタルが遮った。

軍人らしい一喝に、慣れぬ学生達はびくんと体を震わせて口を閉じる。



「戦闘を仕掛けてきたのは、ザフト軍だ。

 我々は、それに応戦したのみ。

 コロニーを崩壊させたのは、彼らだ」

「・・・壊したのは、あんた達の方だ」

「僕達は、見たんですよ。

 白い戦艦が、コロニーを支えるシャフトを断ち切るのを」

「嘘を言うな。

 お前達が、戦闘を見られたはずはないだろう。

 シャフトが切れるのを見たとすれば、もうシェルターに入ることはできなかったはず」



ならば、生きているはずがないと。

言い切る彼女の顔には、微塵の後悔も見受けられなかった。



「見たさ。

 俺達は、避難所に入りはしなかったからな」

「生きているのは、ここの人達が、連れ出してくれたからだよ」



トールとサイは、ナタルと睨み合う。

マリューとフラガは、はっとしたように彼らを見返した。



*** next

Top
Novel


Counter