誰がために−60


キラは女の子です


「・・・ねぇ、何かあったの?」



急ぐと言われ、キラは素早く着替えて出てきたものの、アスランに急ぐ気配は無い。

いつもなら、半ば引っ張られるようになるキラだが、今は手を繋いで歩いているだけだ。



「アスラン?」

「嫌だと思ったら、そう言ってくれ」

「・・・イヤって、何を?

 そもそも、どこへ行くの?」

「・・・俺は、会わせたくないんだ。

 だが、隊長の言うこともわかる」



浮かない顔をしているアスランを、キラはじっと見つめる。

どうやら、怒りや焦りといったものではないと判断したキラは、微笑んで口を開いた。



「誰かが、待っているのね?

 アスランは、その人と私を会わせたくない。

 それは、私のため、ね?」

「ああ」

「私は、その人と、1対1で会うの?」

「いや、・・・俺は一緒にいる。

 ・・・君の友人達も」

「ミリィとトールとサイ?」

「もう一人も」

「・・・フレイ、も?」



さすがに、キラの笑みは強ばる。

言い合った、あの時から一度も会ってはいなかった。

さらに、アスランから告げられたキラが会う相手。



「捕虜?

 地球軍の?」



驚きに目を丸くし、次いで眉を寄せた。

キラにとっては、ザフト軍も地球軍もあまり意味が無い。

この艦でアスラン以外の軍人と接することで、軍人に対する恐怖感も薄れていた。

ましてアスランが傍にいてくれるなら、キラにとっては恐れるものではない。

だから、会えというならかまわなかった。

それはいいのだが・・・。



「キラは、見たまま、思ったままを言えばいい」

「・・・それで、いいの?

 言っちゃいけないことは、無い?」

「キラ・・・」

「アスランが、困ってしまったりしない?」

「・・・キラ。

 気にしなくて、いい。

 普通に、彼らと話してくれ」



キラの気持ちは、すでにアスランを含むザフト軍に傾いている。

それを思わせるキラの言い様に、アスランも微笑んだ。



「俺達は、言われて困るようなことはしていない。

 ただ・・・、艦内の話は止めてくれ。

 逃走経路、とかね」

「もう!アスランったら!

 言うわけ無いでしょ!

 ・・・からかわないでよ、アスラン」

「あははっ」



手を振り上げて叩く真似をするキラに、アスランは声を上げて笑う。



「まぁ、キラも知らないよね」

「・・・そうよ、知らないわよ。

 もう、真面目に話してるのよ?」



上目遣いにキラが睨むが、アスランの声はまだ笑みを含んでいた。

もう、と。

そっぽを向くキラの頬に、さっとアスランの手が伸びる。

首の後ろからまわされたその手で、キラの顔がアスランへと向けられた。

見開くキラの目に、触れんばかりに迫ったアスランの顔が映る。

咄嗟に目を閉じるキラの唇に、アスランのそれを感じた。



***



キスの後、ぼうっとしていたキラは、アスランに手を引かれるままである。

だが、段々と現実に戻ってきたキラは、文句を言い出した。



「なんか、誤魔化された気がする・・・」

「まだ、言ってるのかい?

 別に、誤魔化すようなこと話してなかっただろう」

「そうだけど・・・」



不機嫌そうに黙り込むキラに、アスランは苦笑する。



「ほら、もう着いたから」

「へ!?

 ・・・ここ?」



扉の横に立った兵士の1人が、部屋の中へとアスランとキラの到着を告げた。

アスランと連れだって入ったそこには、クルーゼ。

そして、見知らぬ3人。

不自然に腕が後ろにまわされており、彼らの服は明らかにザフトのではない軍服だ。



この人達が、アスランの言った、捕虜の人?



戸惑うキラに気付いているだろうに、クルーゼは紹介を後回しにすると言う。

すぐに、ミリアリア達が来るのだから仕方ないとキラも思ったけれど。



ちょっと居心地、悪い・・・。



地球軍の3人とは向かい合う長椅子に、キラは座らされた。

アスランは、その背後に立っている。

正面の3人からは、どうも観察されているような気がするキラだった。



*** next

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