誰がために−59


キラは女の子です


「隊長!

 今の話はいったい・・・!?」



捕虜3人が別室へと連れて行かれた後。

その場に残ったアスランが、血相を変えてクルーゼに問いかけた。

そんな彼をクルーゼは珍しそうにまじまじと見て、フッと笑む。

・・・仮面で、アスランには笑みしかわからなかったけれど。



「勘がいいな。

 誰と会わせるのか、わかったのか?」

「キラを、でしょう。

 なぜ、彼女なのです!?」

「彼ら、と言っただろう。

 彼女とその友人達。

 理由は、・・・君ならわかるのではないかな?」

「・・・目撃者、と?」



嫌々ながら、低い声でアスランが答えた。



「ですが、彼らは民間人です。

 民間人の、子供です」

「子供と言うが、君と同い年だろう。

 それに、彼ら以外はモルゲンレーテの人間だ。

 この場合、不適当だろう?」



クルーゼの指摘に、アスランは自分が失念していたことを思い出す。

キラから聞いた話で、あの救命艇がモルゲンレーテの工場区のものであると知っていたはずだった。

ただ、アスランの頭はキラのことでいっぱいで、すっかりそのことを忘れていたのである。

それでも、キラを地球軍の人間に会わせたくなかった。



「あの艦との戦闘を見ていたのは、2人だけです。

 キラ以外の、2人です」

「アスラン。

 キラ・ヤマトを連れてきたまえ。

 ああ、他の4人へは、別の者を行かせる。

 君は、彼女を迎えに行け。

 私服に着替えさせるのを忘れずに、な」



それは、反論を許さぬ命令。

しかしふと、アスランは引っかかりを憶える。



「4人、ですか?」

「そうだ。

 ラスティとミゲルの連れてきた、少年2人。

 救命艇からの少女2人」

「ま、待ってください。

 彼女たちのうちの1人は・・・」

「フレイ・アルスター。

 大西洋連邦事務次官の娘」

「・・・そうなのですか?

 あ、ですが、それならなおさら・・・」



アスランが懸念するのは、フレイのコーディネイターに対する偏見。

彼女の証言が、彼らザフトに有利になるとは限らない。

いや、アスランには、わざわざ虚偽の証言も辞さない人間に思えた。

まして、その素性。

だが、クルーゼにそれがわからないはずもなかった。

わかっていて、言っている。



「わかり、ました。

 失礼致します」



敬礼をし、アスランは退室した。



***



ラスティに先導され、ヘリオポリスの学生4人は移動する。



「ちょっと、なんなのよ。

 いったい、私達をどうしよってわけ?」

「フレイ、やめるんだ」



サイの腕に手を絡めたフレイのすぐ後ろを、ラスティと共に来た兵士がついてきていた。

監視するような彼らを振り返り、フレイが噛みつくように言う。

宥めるサイの声も無視し、ずっと言い続ける彼女に、兵士の目も冷ややかだ。

それに気付くまでもなく、フレイ以外の3人は気が気ではない。

サイも、トールとミリアリアから、彼女がキラに言ったことを聞いていた。

フレイ自身からも、彼女の主観による話を聞かされている。

実際、サイはフレイを持て余していた。

少々わがままなところもあるが、それも可愛い。

そんな風に考えていた自分を、ここへ来て変えざるを得なかった。



「話をしてくれってだけだろう」

「なんだって、私がコーディネイターなんかに協力しなきゃならないわけ!?」

「「「フレイ!」」」



サイだけでなく、トールとミリアリアまで振り返り、揃って制止するように名前を呼ぶ。

サイに至っては、慌ててフレイの口を手で覆った。

3人の剣幕に、フレイも口を噤む。



「頼むから、黙っているんだ、フレイ」



懇願するように言うサイに、不満げにではあるが頷くフレイを見て、その口元から手が外された。

ため息を吐いて顔を上げたサイと、振り返っていたラスティの目が合う。



「すみません」

「・・・お前も、大変だな」



謝るサイに、ラスティは首を横に振り、返事の代わりに気の毒そうな目を向けられた。

同時に、背後からイヤな気配を感じたサイは、しかし敢えて振り向かない。

とにかく、時間を置けばまたフレイが口を開くと思い、行きましょうとラスティを促した。



*** next

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