誰がために−58 | ||
キラは女の子です | ||
「ようこそ、地球軍の諸君」 一人だけ腰掛け、にこやかな口調で話す、クルーゼ。 その顔を覆う仮面に隠された表情は読めないが、少なくとも見える口元は笑みを刻んでいた。 その視線の先に立つのは、捕虜となった地球軍士官3人。 拘束具を付けられた彼らは、一様に硬い表情をしている。 「お招きありがとう。 と、申し上げるべきなのかしら?」 「いやいや、とんでもない。 私がお会いしたくて、ご足労願ったのだからね。 艦長の、マリュー・ラミアス大尉」 「・・・なにか?」 「なに、尉官が艦長というのが少々疑問に思うだけですよ」 「あなた達が!」 ザフト軍の攻撃で吹き飛ばされた施設に、アークエンジェルの主だった士官達はいたのだ。 その事実が、マリューに自らの置かれた立場を忘れさせる。 思わず身を乗り出して叫んだ。 「あなた達の攻撃で、艦長は! 艦長だけじゃない。 クルーも、パイロットも皆・・・っ!」 激昂するマリューに、周りを取り囲む兵士たちが銃口を上げる。 それをクルーゼが、よいと下げさせた。 「ふむ。 我々は戦争をしているのだからね。 それを咎められる謂われは無い」 「あそこは、・・・ヘリオポリスは中立国よ。 そこを攻撃しておいて」 「兵器開発をさせる、地球軍はいいのかね?」 ぐっと詰まるマリューに、クルーゼはさらに追い打ちを掛ける。 「片方の陣営に協力する国を、中立国とは言えまいよ。 そのコロニーを崩壊させた君らはどうかな?」 「あれは、お前達がコロニー内部で攻撃をしたからだろう!」 言い返せない艦長の代わりというように、ナタル・バジルール少尉が口を挟んだ。 しかしその横で、ムウ・ラ・フラガ大尉は苦虫をかみつぶしたような顔をしている。 コロニー内での戦闘を、ひとりモビルアーマーから見た彼には、クルーゼから返されるだろう科白が予測できたのだ。 すなわち。 「我々の砲撃は、コロニーのシャフトに当ててはいない。 君らが、コロニーを崩壊させたのだ」 「・・・何を証拠に!」 「やめなさい、ナタル」 「しかし・・・っ!」 「バジルール少尉! これは命令です」 強い口調に、軍規を重んじるナタルは押し黙る。 それを横目に確認し、マリューは口調を改めてクルーゼへと口を開いた。 「私達に、どうしろと?」 「協力を求めているだけですよ。 あの艦と、モビルスーツの開発について。 知る限りを話して頂きたい。 出来れば、手荒な真似はしたくないのでね」 「それは軍事機密で」 「バジルール少尉、黙りなさい! 失礼しました。 捕虜を尋問するのは、権利です。 ですが、お聞きしたい。 なぜ、このように?」 捕虜の尋問を、隊長自ら行うことはそう不思議ではない。 だが、このように3人も並べての状況をマリューは訝った。 「深い理由は無い。 手を煩わせてくれた君らと話してみたかった。 そんなところかな。 艦長殿は、どうやらコロニー崩壊への責任を認めているようだ」 「それ、は・・・」 「そちらの、・・・『エンデュミオンの鷹』殿はいかがかな?」 「どうと、言われても困るね。 ここで俺が、肯定しちまうわけにもいかないんでな」 話を振られ、ムウが答える。 努めて気軽くされた言葉通り、肩を竦めて見せた。 ナタルは言いたいことがありそうだったが、マリューに言われたように口元をきつく結んでいる。 「副官殿は、異議があるようだ。 我々としても、ヘリオポリスの崩壊には困っていてね。 君らの、地球軍に責任があることをはっきりさせたい」 「それは・・・」 マリューが勝手に、自軍の責を認めてしまうわけにはいかなかった。 たとえ、マリュー自身がそう思っても。 そんな彼女も、次のクルーゼの言葉に目を見開いた。 「君達に、合わせたい人物がいる。 彼らの話を聞いてから、今の答えは聞くとしよう」 「誰、ですか?」 「会ってのお楽しみ、と言いたいが、教えよう。 彼らは、ヘリオポリスの住人。 君達が家を奪った人々だ」 息を呑むマリュー、ナタル、ムウの3人。 部屋の隅に立ったアスランは、驚いたようにクルーゼを見た。 *** next |
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