誰がために−57


キラは女の子です


「ご苦労だった」



クルーゼは満足げにそう言った。

彼の前には、アスランとラスティだけがいる。

同僚3人は、まだモビルスーツで外にいた。

今回の戦果をこの艦に持ち帰るためである。

その戦果とは。

・・・地球軍の新造艦とそのクルー達だった。



「あの艦はミゲルに任せてある。

 まもなく、イザーク達がシャトルに乗せて地球軍の士官を連れてくる予定だ。

 君らは受け入れ態勢を」

「「はっ!」」



敬礼をして、アスランとラスティは艦橋を辞す。

旗艦であるこのヴェサリウスに隊長のクルーゼがいる以上、最初からこちらへ連れてくればいいようなものだったが、今、この艦にはヘリオポリスの民間人がいた。

この上、捕虜まで受け入れては、日常業務に差し支える。

それで、少々手間を掛けて、ガモフへ収容した後、重要人物のみを移送してくることとなった。



「それにしても・・・。

 あっさり降伏してきたよなぁ。

 コロニー壊してまで逃げたくせにさ」

「あれ以上、抵抗のしようが無かっただけだろう。

 艦の砲門をことごとく潰されては、な。

 モビルアーマー一機で、何が出来る?

 確かに、あのパイロットはなかなかの腕だったが」

「ああ、それそれ。

 聞いてないか?

 あれが、メビウス・ゼロ。

 『エンデュミオンの鷹』だと」

「だから?」

「・・・いや、別に」



話のしがいが無いと、口の中で呟くラスティ。

ここにディアッカやニコルがいれば、話に乗ってくるのに、と。



まぁ、イザークよりは・・・いいか?

あいつは、墜とせなかったことを悔しがるだろうからな。

・・・知るのが早いか遅いかの違いだけど。



後で起こる騒ぎを思い、ラスティは今から疲れてしまった。

そんな彼に背を向けているアスランに、イザークは高いライバル意識を持っている。

この戦闘で、アスランだけが活躍したわけでないのは、救いか。



ま、いっか。

イザークには近寄らないでおこう、うん。



あっさりと結論づけ、アスランに話しかけた。

かなり一方的な勝利に、ラスティは何かを話したくてたまらない。



「良かったよな。

 実は、結構心配していただろ?」

「何をだ?」

「キラさ。

 ここに彼女がいるから、気が気じゃなかっただろう?

 さっさと決着がついて良かったな」



作戦では、もともとヴェサリウスの出番は無かった。

モビルスーツ部隊と、ガモフ一隻だけで十分という判断で。

それと、民間人を保護したままというのを考慮してのことだ。

アークエンジェルを破壊せず、投降を勧めたのも、そう。

もちろん、計画通りになったからこそのこと。

クルーゼの予測よりも抵抗が大きければ、総力をもって叩いたはずだ。



「そうだな」

「・・・アスラン?

 変だな、なんかあったか?」



素っ気ない返事ばかりするアスランを、ラスティは疑問に思う。

いや、以前であれば、これが普通だった。

優秀過ぎるほど優秀で、常に冷静なアスラン・ザラ。

それが、特定の事に関してのみ変わると気付かされたのは、つい最近のことだ。

アスランの幼なじみ、キラ・ヤマト。

彼女を前にしたアスランは、まるで別人のようである。



「キラと、なんかあったか?」

「いや・・・」



口ごもるアスランの背を、ラスティがバンッと叩いた。

意外そうな顔で振り返るアスランに、ラスティはニッと笑う。



「話してみろよ。

 頭ん中でぐるぐる考えても、しょうがないだろうが」



***



「なんだ、そりゃ。

 贅沢な悩みだな、おい」



キラが、この艦に残りたいというのだ。

その動機は、言われなくたってラスティにもわかる。



こいつと、一緒にいたいってわけだ。

んで、こいつもキラといたい。

だけど、恋人を軍属にするのは躊躇われる、と。



ここに残るということは、そういうことだ。

軍艦に乗るのは、軍人のみ。



「んじゃ、アスランはキラが両親のところへ帰るって言ったらどうだ?

 黙って、見送れるか?」



押し黙るアスランの、答えは明らかだった。



*** next

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