誰がために−56


キラは女の子です


「今の放送・・・」

「戦闘配備、解除って言った?」

「言った、と思う・・・。

 っと、キラ!?」



呼び止める暇もあればこそ。

果たしてミリアリアの呼び声が届いたかどうかと思われるほど、キラはあっという間に駆けだして行ってしまった。

つられて立ち上がって踏み出していた足を、ミリアリアは戻してもう一度座り直す。



「・・・素早いなぁ。

 あの格好なら、どこへでも行けるのよね。

 危ないことしないといいんだけど」



ため息を吐き、パタンと体を後ろへ倒した。

天井を見上げ、目を閉じる。



キラ、本気よね。

私は、どうしよう?

応援して、あげたいけど・・・。



***



格納庫への入り口から、キラの目はイージスを捉えた。

そのコックピットが開くのを見て、キラはそこを目掛けて勢いよく飛び出す。



「アスラン!」

「キラ!?

 ・・・危ないだろう!」



ハッチの上でキラを抱き留めたアスランは、本気で怒鳴った。

ヘルメットのシールドを上げてあるのでキラの耳にもよく届いたはずだが、キラはまるで気にしない。

それよりも、と。

自らアスランから身を離し、彼に怪我が見受けられないことを目で確かめた。

その上で、さらに言葉で訊く。



「怪我・・・、怪我は無い?

 大丈夫?」

「キラ・・・。

 ああ、俺はどこも。

 キラこそ、危ないことをしないでくれ」

「危ないことしてるのは、アスランじゃない」



キラに潤んだ目で見つめられたアスランから、怒鳴った勢いはすでに萎んでいた。

ヘルメットを外し、キラを腕の中に囲う。



「言っただろう。

 ちゃんと、戻ってきただろう?」

「・・・うん」



抱き寄せられたアスランの胸に、キラは額を付けた。

アスランはそのまま、キラが落ち着くのを待つ。

と、そこに横から声が掛かった。



「おい、アスラン。

 そっちは・・・、って何やってるんだよ?」



ラスティが、2人のすぐ傍に飛んできている。

イージスに手を付いて、体を止めた。

キラはアスランの腕の中から顔を上げ、斜め上から見下ろしてくるラスティと顔を合わせる。

ラスティは、なにやら納得したように頷いた。



「なんだ、キラか。

 じゃ、先に行っているぞ。

 あ、そうだ、キラ」

「な、なんですか!?」



さすがにキラもその体勢が恥ずかしいのか、やや声が裏返っている。

そんな彼女の様子に頓着することなく、ラスティは笑顔を向けた。



「キラ、あんたすごいな。

 ジンより動かし易かったぜ。

 俺のストライク」



その言葉に、キラが顔を改める。

真剣な口調で、ラスティに問うた。



「私、役に立ちました?」

「もちろん。

 っと、じゃあ、また後で」



よほど気分がいいのか、キラに手を振ってラスティは去っていく。

キラはアスランを振り仰いだ。



「アスラン、私、役に立つ?」

「・・・突然、なんだい?」

「私、できること、まだある?」

「待って、キラ。

 落ち着いて」



勢い込んで話すキラを、アスランが止める。

アスランには、キラがどうしたいのか、わかる気がした。

それは、アスラン自身の望みでもある。

アスランがそれを口にすれば、キラは頷くだろうと思った。

だが、だからこそ。

逆にアスランは慎重にならざるを得ない。

一時の感情で決めて、後悔するのはキラなのだ。

危険もある。

そして、なによりも、アスランとキラだけの意志で決められない事だった。



「話は、後に。

 隊長へ報告と、実はまだやることが残っているんだ。

 今度こそ、部屋で待っていてくれ」



*** next

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