誰がために−54 | ||
キラは女の子です | ||
「これで、完了!」 デュエルから身軽く出てきたキラは、そこで待っていたアスランとイザークに笑顔を向けた。 数日掛けて、アスランのイージスからこのデュエルまで、5体の調整が完了したのである。 達成感に、キラの頬が紅潮していた。 「ご苦労さま、キラ」 「・・・アスラン? えっ、て・・・、イザークさん!?」 顔には笑みを浮かべてはいるが、どこか硬い表情のアスラン。 それに違和感を憶えるキラの横から、素早くコックピットに滑り込むイザーク。 今日はこれで終わりと聞いていたキラは驚きの声を上げるが、そんな彼女をアスランは有無を言わさず格納庫から連れ出した。 「・・・どうしたの?」 モビルスーツのコックピットで作業に集中していたキラだったので、アスランに腕を引かれながら見回した格納庫内の慌ただしい動きに疑問と不安を抱く。 「部屋まで、送ってやれなくてすまない」 アスランに腕を放されたそこは、キラも何度か入ったことのあるパイロット待機室の前だった。 もちろん、その時は格納庫を見るため。 だが、本来の使い方は・・・。 「出撃・・・するの?」 「ああ」 「何が、あったの?」 「ごめん」 アスランは時間が無いと暗に示し、キラをそこに置いて待機室に入ってしまった。 残されたキラは、アスランの背に伸ばしていた手をギュッと握りこんで、通路の端に寄る。 扉の横の壁にもたれるキラの前を、慌ただしく兵士や整備士が行き来していった。 ほどなく、アスランがパイロットスーツを纏って出てくる。 「キラ、部屋へ行くんだ」 「・・・」 アスランが、こうして戦いに赴くことはわかっていたはずだった。 ここは軍艦で、アスランは軍人。 そもそもキラがつい先ほどまで弄っていたのは、戦闘を行う機動兵器なのだから。 アスランは今、それに乗って戦場に行く。 作業・・・プログラミングに夢中で、キラの思考からそのことが欠落していた。 努めて、忘れようとしていたのかもしれない。 それが現実に突きつけられ、思い出してしまった。 ヘリオポリスのモルゲンレーテでのこと。 人が、銃弾に倒れていく。 アスランも・・・? キラは両手でアスランの腕にしがみついた。 行くな、というように。 「キラ・・・」 潤み始めた目で見上げてくるキラの頭を、アスランが自分の胸に押しつけた。 が、すぐに顔を上げさせると、唇にキスを落とす。 驚いたキラの手から力が抜けると、さっと身を離した。 「大丈夫。 ちゃんと、戻ってくるよ。 キラが待っていてくれる、ここに」 身を翻したアスランを、キラはただ見送る。 その背が見えなくなって、唇に指先をあてた。 「アスラン・・・」 *** 事情のわからないキラは、しかし誰に訊くこともできない。 戦闘配備中に、まさか艦橋に通信を入れるわけにはいかなかった。 不安は増すばかりだが、それでもキラはアスランの指示通りに部屋に向かう。 「キラ!?」 「・・・ミリィ」 邪魔にならぬよう遠回りをしていたキラは、うっかり避けていたはずのブロック・・・民間人の収容された居住区へ入り込んでいた。 キラを呼び止めたミリアリアとキラとが、どこか気まずく見つめ合う。 最初に動いたのは、ミリアリアだった。 「また、泣いたの?」 ミリアリアの指が、キラの目元を拭う。 最後に会ったときとは違い、避けようとしなかったキラに、ミリアリアが安堵の吐息を漏らした。 にこりと笑いかけた来たミリアリアに、キラは抱きつく。 「ごめんなさい、ミリィ。 あの時、ちょっと混乱してたの」 「そうね。 心配したのよ」 「ありがとう」 軍服の背をポンポンと叩き、それを合図に身を起こしたキラに、ミリアリアが問い直した。 「それで、なにかあったの? さっき警報が鳴って、いろいろ放送があったけど」 「わからない。 私、その警報も気付かなかったの」 *** next |
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