誰がために−53


キラは女の子です


「いい加減、作業を始めないといけないと思うんですけどっ」



もう何度目になるかわからない言葉を、キラはやや強めに発する。



「いいの、いいの。

 イザークが待っていろって言っただろ?」



キラが食事を終えると、片づける前にトレーを取り上げられてしまっていた。

替わりに、ディアッカがトレーとは逆手に持っていたコーヒーを置かれている。

逆らうのも変なので、その時はキラも大人しくそれを飲んだ。

問題は、その後。

戻ったイザークが、何も言わずにどっかりと座ってしまったことだった。

キラが作業に行くと言うと、ディアッカがあとでと言う。

イザークはというと、腕を組んで目を閉じ、まるで反応しなかった。



「ですからっ。

 イザークさんが来るまで、待っていたんでしょう?

 これ以上、何を待つんですか!?」



アスランを、待たせているんですから、と。

今日の作業は、先にアスランが準備をしておくことになっている。

彼が、キラに気を遣ってのことだとわかっているので、彼女の気は急くばかりだ。

イザークが戻って、かなり時間が経っている。

それでなくても、キラはミリアリアの部屋でかなり時間を消費していた。

その後、イザークの部屋でも。



「ほらほら、落ち着けって。

 これでも飲んで、な」

「これ・・・」

「昨日、飲んだのこれなんだろ?」

「ええ・・・」



甘くしたとはいえ、苦手なコーヒーの味がキラの口に残っている。

目の前に置かれたその甘い飲み物に、キラの手が伸びた。



「美味しい」

「そりゃ、よかった。

 キラの名前出したら、作ってくれたんだぜ。

 アスランの奴が、頼んでおいたらいしいな」

「・・・アスランが」

「そう。

 あんた、やっぱり大事にされてるよ」



キラは、カップを口に運ぶ手を止める。

暫しの沈黙の後、その顔を嬉しそうに綻ばした。



「そうですね。

 そう、思います」

「・・・少しは照れろって」

「え?」

「・・・ま、いいけどよ」



首を傾げるキラに、ディアッカがもういいと手を振る。

わからないながらも、キラはとりあえず急いで飲み干した。

そして止められないうちにと立ち上がった時。

すぐ後ろにアスランが立ちふさがっていた。

・・・実際にはただそこに立ち止まっただけなのだが、キラにとってはということである。

ぶつかりそうになって、バランスを崩したキラを、アスランの腕が抱き留めた。



「危ないよ、キラ」

「アスランが、そんなとこに立ってたからでしょ」

「そうか?」



淡々とキラと話すアスランへ、横からイザークが口を挟む。



「隊長の許可は得た。

 作業は明日からだ」

「わかった。

 ありがとう、イザーク」

「ふん。

 なら、ちゃんと横についていてやれ」



言い捨てて去るイザークに、キラがちょっと顔を曇らせた。

気付いたディアッカがやれやれとフォローする。



「あれ、別にキラを迷惑って言ってるんじゃないからな」

「ですけど・・・」

「ちょっと、口が悪いだけだから」

「人のこと言えないよ?」



いつの間にか、彼らの傍にニコルとラスティも来ていた。

ディアッカはラスティの言葉には肩を竦めて見せる。



「お前らも、来たのかよ?」

「ええ。

 ああ、アスラン。

 隊長から伝言ですよ。

 キラさんに、艦内を案内しておくように。

 今から、行ってきたらどうですか?」

 

***



「ね、アスラン。

 作業をさせて。

 あと少しなんだから」

「・・・無理するな」



握られた手に力が込められ、キラが目を見開いた。



「友達から、伝言がある」

「とも・・・だ・・・ち・・・」

「ミリアリア・ハウ。

 自分達は、キラのことが好きだ。

 そう言っていたよ。

 それと、しばらく俺にキラを預からせてくれるそうだ。

 良い、友達だな」



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