誰がために−51


キラは女の子です


「ここで食べながら、待っていろ」



イザークは強引にキラを座らせる。

かなり時間を無駄にしたので、キラは朝食抜きで作業に行こうとしたのだが、イザークが許さなかったのだ。

さらに、ディアッカに見張っていろと言い置くと、さっさと出ていく。



「あ、の・・・。

 その、大丈夫ですか?」

「ん?

 ああ、平気、平気。

 あんなの、いつものことだから」



苦笑しながら、ディアッカはキラの向かいに腰を下ろした。

片手で頬杖をつき、空いた手でキラの前に置かれたトレイを指す。



「俺の心配より、それのが先だろ。

 食っちゃえば?

 俺らは、もう済んでるから」

「あ、だけど。

 あの人は、どこへ行ったんですか?」

「さぁ?

 人のことは、いいから。

 食っちゃえって、それ」



***



格納庫へと来たイザークは、ざっと見渡し、イージスから出てきたアスランを見つけた。



「おい、アスラン!」

「・・・イザーク?」



呼びかけに振り返ったアスランは、訝しげにその名を呼ぶ。

アスランは、イザークが自分を快く思っていないことを知っていた。

だから、わざわざ、それも一人で近寄ってくるなど、何事かと不審に思う。

コックピットハッチの上で待つと、ほどなくイザークもその横に取りついた。



「お前の幼なじみと友人らしい女を知っているな?」



開口一番、これしか言わない。

説明ぐらいしろと言いたいが、イザークがなにやら急いているのがわかったアスランは、端的に答えた。



「・・・2人いる。

 ミリアリアとフレイ」

「茶色い髪をしていたな。

 そいつの部屋は?」

「知っている」

「なら、すぐに行って、話を聞いてこい」



これには、さすがにアスランも眉を寄せる。

耳を疑っても仕方がなかった。

イザークが、民間人に会ってこいと言う。

イザークが、だ。

だが、続いたイザークの言葉に、アスランは顔つきを改める。



「泣いていたぞ。

 お前の・・・、名前はキラだったな。

 民間人相手に、何かあったらしい。

 待て!」



話の途中で身を翻そうとしたアスランの腕を、イザークは掴んで止めた。

振り切ろうとする腕を、さらに強く掴む。



「もう、泣いていない。

 今は食事をしている。

 ディアッカを付けてあるから、そっちは急がなくていい。

 それより、事情を確認するのが先だろう」

「・・・ああ、そうだな」



冷静さを取り戻したらしいアスランに、イザークは手を放した。

アスランは、頭を切り換えようと、片手で髪を掻き上げる。

と、その手を止め、当然の疑問を口にした。



「なぜ、お前が?」

「隊長から、民間人相手の仕事を言いつけられた。

 OSは他の人間がやるそうでな?」



イザークに黙っていたのは、悪気ではない。

決めたのはクルーゼだし、昨日のイザークは機嫌がよろしく無かった。

だがアスランも、イザークに敢えて言おうともしていない。

これが、キラに関係していなければ、アスランは違った対応をしたはずだった。

さすがに後ろめたさが湧き、口を噤む。

そんなアスランを間近に観察し、気が抜けたように呟いた。



「ほら、こっちは見て置いてやる。

 さっさと行け」

「あ、ああ。

 すまない、イザーク」



一直線に飛んでいくアスランの背を見送るでなく、イザークはさっとイージスに入る。

シートに座ると、機体は既に起動していた。

キーボードを引き出し、システムを確認する。



「・・・ほう。

 これを、あの女が半日で作ったのか?

 確かに、大した腕だ」



キラの話を聞いても半信半疑だったイザークだが、実際にキラの作ったプログラムを見ては、納得せざるを得なかった。

気の済んだイザークは、イージスをダウンさせる。



「当分、戻らないだろうからな・・・」



イザークは通信室へ戻らねばならず、しかし誰もいない状況でモビルスーツを起動させておくわけにはいなかった。



*** next

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