誰がために−50


キラは女の子です


「ほら、ここへ座れ」



引っ張ってきたキラを、イザークは強引に椅子に腰掛けさせる。

自分も正面に座り、未だ泣き止まぬ少女に困惑した目を向けた。

ここに来るまでに、しゃくり上げるような泣き方に変わっている。

イザークがしばらく黙っていると、いくらか落ち着いたのか、キラが静かになってきた。

自分でハンカチを取り出して目に当てるキラに、イザークは努めて穏やかに話しかける。



「話は、できるか?」

「・・・はい。

 すみません」

「何を謝る?」

「お仕事を邪魔したんじゃないですか?」

「これも仕事だ。

 隊長の命令でな。

 詳しくは言わないが、お前が気にすることはない」



聞いたキラの不思議そうな顔に、イザークが説明を加えた。



「確かに、俺はナチュラルは嫌いだがな。

 だからといって、民間人をどうするつもりもない。

 隊長から、OSの書き替えを中断するように言われた。

 専門の者にやらせるという話だったが・・・。

 お前か」



こくり、と頷くキラは、どことなくイザークに怯えを見せている。

それに気づいたイザークは、ため息を吐いた。



「・・・悪かったな」

「・・・え?」

「あの時は、俺も冷静でなかったからな。

 泣かせるつもりはなかった」



気まずそうにイザークが言う。

それが、一昨日の対面時のこととわかり、キラは慌てて首を横に振った。



***



「おう、イザーク。

 こんなとこにいたのかよ」



通路で腕を組んで壁に寄りかかっているイザークへ、歩いてきたディアッカが声を掛けてくる。

顔を上げて自分を見たイザークの前にディアッカは立ち止まった。



「自分の部屋の前で、何してんだ?」

「・・・。

 どこか、行くんだろう?

 さっさと行け」

「いやぁ、別に。

 今のとこ、やることないしな。

 キ・・・と、いや。

 あっちの作業が終わらねぇと」



キラの名を出しかけたディアッカは、慌てて誤魔化そうと言い換える。

イザークがキラに良い感情を持っていないと思ったからだ。

隊長も、特に彼女の名を出すとは言っていなかったし、と。

しかし、イザークはそんなディアッカをギロッと睨む。



「・・・知っていたわけだ」

「な、なにをだ?」

「ふん、なるほどな」



やっべぇ、こいつもうキラのこと知ってるのかよ!

いったいどこから・・・、つうか。

自分だけ知らなかったから、怒ってる!



不機嫌さを醸し出すイザークからの無言の圧力に、ディアッカが脂汗を流し始めた。

イザークへの言い訳が思いつかず、あーとか、うーとか言っている。

と、不意にイザークの視線がディアッカから外された。

その目は、たった今開いた自室の扉から出てきた軍服姿の少女に向けられる。

同時に、壁に預けていた背を起こした。



「お待たせして、すみません」

「いい。

 行くぞ」

「はい。

 あ、・・・ディアッカさん」



イザークの横に立つディアッカに気づいたキラは、ちょっと恥ずかしげな笑みを浮かべる。

おはようございます、と挨拶をするキラに、ディアッカから声が返らない。

彼は、あんぐりと口を開けて固まっていた。



「あの、・・・もしもし?

 大丈夫ですか?」

「・・・へ?」



目の前でキラに手を振られ、はっと我に返るディアッカ。

心配そうに見上げてくるキラに、ディアッカは恐る恐る訊ねる。



「今、イザークの部屋から出てきた、よな?」

「はい、そうですけど・・・」

「なんで?」

「え、それは・・・」



顔を赤らめて、キラは目を逸らした。

泣いたことが恥ずかしく、また、その理由を含めて言いたくなくてそうしたのだが、ディアッカがそれで誤解するとは思いもしない。

俯き加減のキラを見下ろし、ディアッカはニヤッと笑った。



「やるじゃねぇか、イザーク。

 アスランの女を寝取るなんざ」



言葉の意味をすぐに理解できなかったキラは、きょとんとする。

顔を起こしたキラの前で、ディアッカはイザークに蹴り飛ばされた。



*** next

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