誰がために−49


キラは女の子です


「あの人、呼んでちょうだい!」

「・・・は?」



通信機に相手が映った瞬間、ミリアリアは叫ぶ。

相手にしてみれば、ミリアリアは救助した民間人。

その戸惑いは理解するが、今の彼女にはそんなことに構っていられなかった。



「キラが大変なの!

 早くったら!」

「なんなんだ、おまえ?」

「あんたこそ、誰よ!?

 あんたに、用は無いのよ。

 早く、あの人を呼んでよ!」

「あのな」

「早く!

 早くったら、早く!

 何してるのよ、のろま!」

「黙れ!」



声を張り上げていたミリアリアのそれを上回る怒声に、ミリアリアが息を呑む。

びくんと身を引いて口を閉じたミリアリアに、通信機の向こうで、銀の髪をした少年兵がため息を吐いた。



「お前は、何を言いたいんだ?

 少しは冷静に話せ」

「あ・・・、と。

 あの、あの人・・・パイロットの人を呼んで欲しいんです、けど・・・」



相手の不機嫌そうな威圧感に、気後れしながら、ミリアリアが言葉を紡ぐ。

アスランを呼んで欲しいと言いたいのだが、焦ったミリアリアは、その名前が咄嗟に出てこなかった。



「パイロットというなら、俺もそうだ。

 何の用だというんだ?」

「な、名前、なんだっけ・・・?

 緑色の目をした・・・」

「・・・アスラン・ザラか?」

「あ、そうです!

 そんな名前です!

 彼に私の部屋に来てもらってください!」

「だから、理由を言え。

 一日のスケジュールは決まっている。

 部外者に呼ばれて、そう簡単にいくものか」

「そ、れは・・・」



ミリアリアは説明するのを躊躇う。

キラのことを、見知らぬ相手に話していいか。

そして、事細かにその内容をザフトの、つまりはコーディネイターに話していいものか、と。

いつまでも黙っているミリアリアに、兵士・・・イザークは再度のため息を吐いた。



「そちらへ行く。

 待っていろ」



プツン、と。

一方的に切られた通話に、ミリアリアが黒くなったモニターを唖然と見る。



「って、あなたが来ても・・・。

 ・・・はっ、キラ!

 ・・・キラ」



ミリアリアが振り返ったベットの上で、キラが起きあがっていた。

その瞳からは、透明な雫が流れ落ちている。

それを見て、ミリアリアは少し落ち着いた。

しかし、自分に伸ばされたミリアリアの手を視界に映すと、キラがミリアリアから離れようとする。

その様は、怯えているというよりも、触れてはいけないものを避けているようだった。



***



「なぜ、この女が軍服を着ている?」



キラを見るなりの、そのイザークの科白に、ミリアリアが首を傾げる。

どうやら事情を知らないらしいイザークに、ミリアリアがキラから聞いた話をかいつまんで説明した。



「隊長が?

 ・・・なるほどな」

「なるほどって?」

「こちらの話だ。

 それよりも、なにか用があったんじゃないのか?」

「はっ、そうですっ。

 アスランさんを呼んでださい。

 キラが、ご覧の通りで。

 私じゃ、ダメなんです。

 彼でないと」



ミリアリアがキラに触れてみせると、キラは首を横に振りながら逃げる。

その間、ずっと涙を流すキラに、イザークは顔を顰めた。



「それを着て、そんな態度をとるな」

「ちょっ・・・、乱暴はっ」



キラに歩み寄り、イザークは彼女の腕を掴んで立ち上がらせる。

止めようとしたミリアリアの目が、見開かれた。

キラが、イザークの手を、ミリアリア相手のようには避けなかったから。



「キラ・・・」

「どうやら、ここにいたくないようだな」

「そう、ですね」

「俺が、連れて行く。

 アスランは後でよこすから、そっちに説明すればいい」

「あ・・・」



イザークに引かれて歩くキラを見て、ミリアリアは不甲斐ない自分が悔しかった。



*** next

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