誰がために−48


キラは女の子です


「ここのやつらが、ヘリオポリスを攻撃してきたんでしょ。

 お陰で、大迷惑よ。

 まったくっ」



フレイの言っていることに間違いは、無い。

ミリアリアの中にも、キラの中にだってその気持ちが無いとは言えなかった。

実際、原因は地球軍の兵器開発にモルゲンレーテが協力したことでも、この事態の発端は彼らの攻撃である。

ザフトがコロニーを壊そうなどとまで考えていなかっただろうことなど、結果の前ではただの言い訳だ。

あの戦闘が無ければ、彼女達は今頃、戦争とは無縁の日常にあったことだろう。

ザフト軍と地球軍、そしてオーブがこの結果を招いた。



「攻撃されたら、応戦するのは当然じゃないの。

 中立のコロニーになんてことするのかしらねっ」



2人とも、フレイの言うようにザフトだけが悪いとは思っていない。

ミリアリアは、簡単に説明を受けただけ。

キラは、彼女よりもずっと詳しく話を聞いていたけれど、だからこそ、言えなかった。

アスラン達は、悪くない、などとは。

だから、フレイがプラントやザフト軍、この艦の兵士達のことを一方的に悪く言っていても、諫める言葉が上手く出なかった。

それに、ミリアリアもそうだが、フレイはこの部屋とサイとトールの部屋、そしてラウンジにしか行かれない。

ストレスも溜まるだろうと思った。

しかし、彼女達が口を噤んでいる間に、フレイの言葉はエスカレートする。



「だから、コーディネイターなんて、イヤなのよ」

「!」

「フレイ!」



目を見開いたキラを気遣い、ミリアリアがフレイを制止するように呼んだ。

だが、フレイの口は止まらない。



「自分達がしたことを棚に上げて。

 艦内を動き回るな、ですって。

 何様のつもりだっていうのよ」

「そりゃ、軍艦なんだから」

「じゃあ、キラはどうなのよ。

 幼なじみとかいうのと、好き勝手しているみたいじゃない。

 そんな服まで着て。

 変でしょ?

 化け物は、化け物同士で仲良くしているんでしょうけど!」

「な・・・、なんてこと言うの!」

「コーディネイターなんて、気持ち悪いわ。

 病気でも無いのに、遺伝子を弄って。

 普通じゃないわ。

 自然じゃ、無いもの」



蒼白になったキラの頭を、ミリアリアが抱え込んだ。

フレイの吐く毒を聞かせないように。



「もう、止めて!

 いい加減にしなさいよ、フレイ!」



怒鳴りつけたミリアリアを、フレイがなによ?というように見た。

しかしその視線は、すぐにミリアリアの顔の下、キラへと移動する。



「成績、良いはずよね。

 そう、作られたんですもん。

 まぁ、確かに見られる顔してたけど。

 化け物の仲間だったんた。

 ミリアリアも、なんだって庇うの」

「キラは、友達よ!

 化け物なんかじゃない。

 コーディネイターもナチュラルも、人間よ。

 そんな風に、言わないで、フレイ」



睨んでくるミリアリアに、フレイは忌々しそうに舌打ちをした。

そしてミリアリア抱きしめられて背を向けたキラを睨むと、踵を返して足早に部屋を出ていく。

扉が閉じたのを確認して、ミリアリアは腕の中で震えているキラの顔を覗き込んだ。



「キ・・・ラ・・・」



ミリアリアの予想に反して、キラは泣いてはいない。

いない、が・・・。



「キラ、キラ、聞いて」



キラの目に涙は無くとも、焦点の定まらないそれに、ミリアリアは焦った。

強引に顔を上げさせても目を合わせてこない。

キラには、フレイの言いようはショックが大きかった。

ナチュラルの中には、コーディネイターを忌み嫌うものがいることは、知っている。

知ってはいても、キラがそんな言葉に晒されるのは、始めてだった。

オーブは、地球にあって、コーディネイターを受け入れている数少ない国。

そのコロニーであるヘリオポリスで、キラがそんな差別を受けることは無かった。

月では、さらにありえない。

キラが育ったそこは、ナチュラルよりもコーディネイターが多い地域だった。

そんなキラが、コーディネイターだから化け物、気持ちが悪いと。

友人と思っているフレイから向けられたその敵意が、キラの心に突き刺さった。



「キラ」

「・・・私、は」

「キラ?」

「・・・そんな」

「キラ、キラ、しっかりして!」



肩を掴んで揺さぶるミリアリアに、キラはされるがままに揺れる。

何かを呟くキラの様子に、ミリアリアは部屋の中を見回した。

どうしよう、どうしたらいい、と。

その目が、壁面に設置された通話機に止まる。

力の抜けているキラを寝かせ、ミリアリアはそれに飛びついた。



*** next

Top
Novel


Counter