誰がために−44 | ||
キラは女の子です | ||
「あの、あ、アスラン・・・」 自分の手を引いて前を行くアスランの背に、キラが恐る恐る声を掛ける。 先ほど、アスランは力ずくでキラを退けて自分がコックピットに入った。 そしてすぐに出てくると、キラの手を掴んで、勢いよく飛ぶ。 やり残しを気にして背後を振り返るキラの戸惑いの声には答えなかった。 お、怒ってる? 何に対して・・・? って、この場合、私、よね・・・? キラは、唇を噛んで、思い出す。 アスランは、キラの作業中ずっと傍にいた。 もちろん、途中・・・そう、食事を持ってきたりもしているが。 アスランがどこかで誰かと諍いを起こしたとはキラには思えず、もしあったとしても、それをキラに気づかせるような態度をとる彼ではなかった。 先ほど作業の中断を言い渡してきた時の様子も、キラを心配してのことだとわかっている。 アスランから怒りを感じたのは、最後に叫んだ後のこと。 そうだった、と。 その場には、アスランとキラしかいなかったのだ。 「アスラン、どうして怒っているの?」 「・・・」 「私・・・、ごめんなさい。 ちゃんと、言うとおりにするから。 ・・・心配させて、ごめん」 「違う!」 怒鳴り、振り向いたアスランが見たのは、目に涙を浮かべたキラ。 ビクンと体を強ばらせ、アスランの前でキラが顔を歪める。 アスランは慌てた。 「キ、キラ! 違う、違うんだ、キラ。 怒っているわけじゃ・・・」 「嘘。 アスラン、怒ってる。 わかるわ、私には。 そうでしょう?」 「キラ・・・。 確かに、怒ってはいる」 「やっぱり」 「ああ、だから、違うんだっ」 仕方なしと頷くアスランに、ぽろっとキラの目元から涙がこぼれ落ちる。 さらにしゃくりあげ始めたキラを、アスランは抱えるようにして部屋へと急いだ。 幸いにして通路には2人きりだったが、ここは通路のど真ん中。 いつ誰が通るかわからず、こんなふうに泣き出したキラが簡単に泣き止まないことをアスランはよく知っていたから。 *** 「ごめん、キラ。 泣かせるつもりなんてなかったんだ」 「・・・っ。 わ、私も、泣く、泣くつもり、なんか・・・」 ベットに腰を下ろして、アスランはキラを胸に抱いていた。 キラはアスランから隠すように、彼の胸に顔を伏せている。 本人は涙を止めようとしているようだったが、上手くはいっていなかった。 落ち着かせようと、アスランがキラの背を撫で、髪を梳く。 「俺はね。 キラに対して怒っていたんじゃないよ」 「・・・でも」 「キラじゃなくて、俺自身になんだ」 「アスラン? 何を言っているの?」 思わずというように上げられたキラの顔は、やっと涙が止まったようだった。 アスランは、赤くなったその頬や瞼にキスを落とす。 「ごめん。 俺が、自分に腹を立てていたんだ。 キラは悪くない。 何も、ね」 「なんで?」 「なんで・・・って、・・・キラ。 キラは、ただ俺達に協力してくれているだけだよ。 どうして、俺が怒ったりする? そうじゃなくてね。 俺が、キラの性格を忘れていたんだ」 「性格?私の?」 「そう、キラの。 集中したら、気が済むまで止めないこと。 わかっていたはずなんだけど、久しぶりでうっかりしていた」 *** 「私、戻らなくちゃ。 ミリィが待ってるわ、きっと」 顔を洗ってすっきりしたキラは、笑顔でアスランの部屋を出た。 実は、このまま昨夜のようにここにいたいと思う。 しかし、ミリィには戻ると言ってあるし、第一、アスランに迷惑を掛けたくなかった。 アスランの手伝いをする以上、明日もずっと一緒にいられる。 だから、今夜はこれまで。 送ってくれるというアスランの言葉は、断った。 ミリィ達はいいけど、他の人達、ザフトの人を変な目で見るものね。 アスランはそんな視線を意に介していないことは、キラも気づいている。 しかしそれは、キラがイヤなのだ。 *** next |
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