誰がために−42 | ||
キラは女の子です | ||
「うぅん? この服来てれば、目立たないと思ったんだけど」 アスランと通路を進んでいると、すれ違う兵達が必ずキラを見ていた。 視線が気になってそちらを見ると、皆、あからさまに顔を逸らすのである。 軍服は、着たくなかったけれど、それが必要と言われてしまったので仕方がなかった。 けれど、それなら代わりに、こうしてじろじろと見られることが無くなるというメリットはあるとキラは思う。 思うのだが、実際はそうでもない。 無いどころか。 「私、どこか変?」 床に降り、自らの服装を確認しながら、キラは首を傾げた。 服はもちろん、靴も正規のものを身につけている。 それなのに、なぜ?と。 「どこも、おかしくない。 キラが目立っているのは服装のせいじゃないからね」 「服じゃなければ、どこ? 髪、はねてないよね・・・」 「そんなんじゃ、ないから。 ほら、時間がもったいない。 行くよ」 「あん、ちょっと、アスラン!?」 手を強く引かれ、びっくりして声を上げるキラを、アスランが楽しそうに振り返る。 その顔に、キラはドキッとした。 慌てて気づかれないようになんでもないふうを装う。 「キラが、魅力的だからだよ」 「みりょ・・・って。 からかわないでよ、アスラン」 「なんで? からかってないよ、俺は」 「だって、み・・・、魅力的って、私のこと?」 「ああ、当然だろ? とても、可愛いよ」 「そんなこと言うの、アスランだけよ」 眉を寄せて否定するキラは、かなり本気で言っていた。 それに気づいたアスランは、ついまじまじとキラを見つめる。 「キラ、ほんとに?」 「ほんとって、何が?」 「可愛いって言われない?」 「言われないわよ。 そりゃ、一応コーディネイターだから、顔立ちが整ってるとは言われるけど。 あ、ミリィは可愛いって言ってくれるけどね。 男の子には、言われたこと無いわ。 ん・・・そうね、可愛いっていうのは、フレイみたいな子でしょう?」 「フレイ・・・、あの赤い髪の?」 「そうよ。 彼女、とても人気があるみたい。 とっても、女の子らしいもの」 「キラは、とても女の子らしいよ。 昔から、ね」 「昔・・・って、アスラン。 いくらなんでも、それはないでしょう? 月にいる間、私、ちっとも女の子らしくしていた記憶無いわ」 キラはいつも、男の子のような服で、アスランと遊んでいた。 その頃は、アスランへの気持ちを自覚していなかったというのもある。 しかしだからこそ、キラは平気でアスランといられた。 考えてみれば、話し方が変わったのもヘリオポリスに移住してから。 アスランに再会した驚きと喜びで、キラもうっかりしていた。 「アスラン、私の話し方、気にならない?」 「なんだい、突然?」 話が飛躍し、アスランは面食らう。 そんなアスランに、キラが真剣な顔で迫った。 「私、話し方変わったでしょう?」 「そうだね。 女性の話し言葉になってる」 「変じゃない?」 「・・・なんで、変なんだ? それに、俺も違うよ」 「・・・そうね」 言われて気づいた、というようにキラが目を見開く。 前は、僕って言ってた。 ・・・私も言ってたけど。 でも、昔のアスランは今思えば、とても可愛かったわ。 同級生の中では、格好良かったんだけど。 今のアスランは、もっと素敵。 「お母さんに、言われたの。 話し方を直せって」 「そうか」 「女の子なんだから、って。 アスランもそう? 私が、今さら僕って言ったら、おかしいと思う?」 「どうして?」 「どうしてって・・・」 「どんな話し方でも、キラはキラだろう。 3年で、こんなに綺麗になっても、ね。」 キラが、キラ自身であればいい、と。 誰かに言われて、無理をすることもない、と。 そうアスランに言われて、キラは嬉しそうに顔を綻ばせた。 *** next |
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