誰がために−41


キラは女の子です


「アスラン・ザラ、入ります。

 キラ・ヤマトを連れて参りました」



姿勢を正し、顔を引き締めたアスランは、彼が軍人であることをキラに実感させる。

そこまで穏やかな、嬉しげな表情をしていた。

それが艦橋の前まで来て、消える。



アスラン?



不安になったキラは、振り返って差し出された手をとるのを、一瞬躊躇った。

だが、強引に手を繋がれ、驚いて顔を上げる。



「大丈夫。

 俺が一緒なんだから、心配は無いよ」

「・・・うん」



今までどおりのアスランに、こくん、とキラが頷いた。

アスランはそんなキラの額にキスを落とし、赤面するキラに微笑む。



***



キラは戸惑っていた。

ここは、軍艦の艦橋で。

横にはアスランがいる。

そのアスランが紹介してくれた、目の前の人物。

アスラン達の隊長だという彼は・・・。



「気になるかね?」

「はい。

 あ、いえ、その・・・っ」



ついうっかり、正直に答えてしまい、慌てて否定するキラに、隊長・・・ラウ・ル・クルーゼは苦笑した。

・・・ように見える。

クルーゼは、顔面の大半を隠すような仮面を着けていた。

あまりに異質なそれに、初対面では誰もが同じような反応を示すのだろう。

気にした様子もなく、クルーゼは言った。

曰く、事情があって、と。

説明にはまるでなっていない。

だが、大抵の人間は、これで詳しく訊ねる気を抑えた。

キラも同様である。



「お会いできて、嬉しいですよ」

「は?」

「隊長?」



唐突ににこやかになったクルーゼに、キラは目を丸くした。

横で聞いていたアスランも。



「彼女については、かなり話に上っている」

「キラのことがですか?」

「意外そうだな?

 原因は、君だぞ。

 君が、今まで見たことのない表情をしている、とな。

 さっきのように」



額にとはいえ、艦橋内を一望出来る場所で、アスランはキラにキスをしたのだ。

今、周りのブリッジクルーたちも、ちらちらとアスランとキラとを窺い見ている。



「昨日、今日のことで、もう私の耳に入るのだからな。

 艦中で噂されているのではないかな?」

「隊長。

 本題に入っていただけませんか?」



アスランは軍人としての顔を作り、上官の軽口を止めようとした。

その手が、キラの手を握ったままなのは、アスランの気遣いだろう。

今までよりも強く握られた手に勇気づけられ、キラも顔を上げてクルーゼに相対した。



***



「なんか、あっさりしていたね・・・」



キラが気の抜けたような声を出す。

さっきまでの緊張が嘘のようだった。



「だから、言っただろう」



先にざっと説明してあったとはいえ、話を聞き終えて、クルーゼは即決。

キラが心配するようなことは、無かった。

あるいは、地球軍に荷担したと責められたりはしないかとか。

なにより、アスランに迷惑が掛からないかと。

しかし、クルーゼはあっさりと言っただけだった。

そうか、と。

そして、キラの協力を承認し、彼女にかなりの自由を許した。

区域限定とはいえ、艦内を一人で行動できること。

但し、クルー達との混乱を避けるため、軍服の着用。

・・・これは、キラとしては遠慮したかったが、断れなかった。



「でも、変な感じだわ」



身につけた軍服を見下ろし、キラがため息を吐く。

軍服であることもだが、慣れないスカートで歩きづらいのだった。

艦内のほとんどは宙を滑るように移動するが、居住区などは違う。

移動は慣れてきたが、足が自由に動かせないのが不便で仕方がなかった。



「似合ってるよ。

 でも・・・動きづらそうだね」



アスランの目にも、キラがスカートを気にしているのがよくわかる。

時々、必要もないのに足を動かし、浮いた体が傾ぐのを、アスランがその度に支えていた。

下は私服のズボンでもとも思わないではない、が。

アスランはそれを提案しなかった。



「すぐ、慣れるよ」

「・・・そうだといいんだけど」



乗り気じゃないキラに対し、アスランは女性らしい服を着たキラを見るのは始めてで、実は内心喜んでいるたりする。

そう、それがかっちりとした軍服でも。



*** next

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