誰がために−38


キラは女の子です


「なにか、まずいことを言いましたか?」



アスランに連れられてきた時のキラとの様子の違いに、アスランに小さく訊いた。

いや、とニコルへと首を横に振り、もう一度キラを呼ぶ。



「キラ。

 ほら、ニコルが気にしているよ」

「・・・あ、すみません。

 ・・・ありがとうございます」



はっとして顔を上げたキラは、目の前に差し出されたカップを受け取った。

両手で持ち直して、そのまま口元に運ぶ。

覇気のない顔つきでコーヒーを一口含んだキラは。



「ん・・・・・・・・・っ」



カップをダンッとカップを置き、両手を口にあてて顔を歪めてしまった。

同じくコーヒーを飲み始めていたアスランは、その時の音でキラへと向く。

だが、キラを見た途端、アスランはクスッと笑った。



「なんだ、昔のままか?」

「・・・ん」



こっくりと頷くキラに、アスランがちょっと待ってろと言って席を立つ。

アスランとキラの遣り取りに、一緒に席に着いているニコルとラスティは顔を見合わせた。



「キラさん・・・、大丈夫ですか?」

「どうしたんだ?

 変な物でも入っていたか?」

「失礼な。

 僕は同じ物を2つ持ってきたんです。

 キラさんのだけにだったら、僕が入れたとでも?」

「んなこと、言ってないって」



ニコルに睨まれても笑って受け流すラスティを横目に、ディアッカが何かに気づいたように手を叩く。

ディアッカの視線は、アスランの動きを追っていた。

捻っていた体を戻し、キラに向かって口を開く。



「あんた、苦いのダメなんだ?」

「あ、そういえば・・・ブラックのままでしたね」



アスランが常にブラックコーヒーを愛飲しているのを知っていたニコルは、うっかりキラの分まで同じつもりで持ってきていたのだ。

ディアッカの質問に、キラもアスランを追っていた視線を前に向ける。

キラは目尻に涙を溜めたまま、うんうんと頷いた。



「やっぱりなぁ」

「脅かすなよな」

「気づかなくて、すみません。

 でも、ここのはかなり薄いんですが・・・。

 でもダメなんですね」



ぷるぷると首を振るキラに、ニコルは肩を落とす。

失敗したなぁ、と呟いて。

そこへ、アスランが手に別のカップを持って戻ってきた。

黙って差し出されたそれを、キラは奪い取るように掴む。

ごくごくと音が聞こえるほど勢いよく飲み干した。



「・・・はぁ。

 苦かったぁ。

 あ、でも、これ甘くて美味しかった」



もう一杯ちょうだいなと、ニコニコしながらキラが言う。

それにアスランが答える前に、ラスティが意外そうな声を上げた。



「おい、なんなんだ、それ?

 ここに、甘い飲み物なんか無いだろう?」



実は結構な甘党の彼は、いつもコーヒーに甘味料をたっぷりと入れている。

さらには自分用に保存の利く飲み物をわざわざ艦に持ちこんでいた。



「作ってもらったんだ」

「えーっ!?

 嘘だろう?

 俺だって頼んだけど、無視されたぞ!」



アスランの返事に、ラスティは納得がいかない。

しかし、ニコルはあっさりと言った。



「そりゃ、相手を見たんですよ」

「・・・なんで俺だとダメなんだよ?」

「きまっているじゃないですか。

 人徳というものですよ」

「おい」

「というのは冗談ですけど」



先の会話の意趣返しというようにしれっと返した後、ニコルは無難に答える。

あなたに許したら、キリが無いでしょう、と。

確かに一度で済ますとは自分でも思えないラスティは、ちぇっと舌を出した。

そんな彼らの遣り取りに、キラがクスクスと笑い出す。

笑われて口を噤んだラスティは、楽しそうなキラを見て、自分も微笑んだ。



「いいな、こういうのも」

「なんです、突然?」

「いや、ほら、さ。

 心が和むっていうか・・・」

「・・・そう、ですね」



アスランから受け取った2杯目のジュースを飲むキラは嬉しそうで、確かに軍艦の中では異質で、しかし場を華やかにしてくれている。

ニコルもラスティの言う意味に納得したのだが。



「まぁ、その目があいつだけに向いているのが、難点だけどなぁ」



付け加えられたそれには、沈黙で返した。



*** next

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