誰がために−37


キラは女の子です


「私は、今でもアスランの親友?」

「そうだよ」

「じゃあ・・・」



言い淀み、キラはアスランと合わせていた視線をずらす。

少し距離を置きたいと思うが、今のキラはアスランの腕の中なので、そうもできなかった。

ただ、やはり面と向かっては言いづらく、彼の肩越しに、その背後の何も無い空間を見ている。



「あの、ね。

 親友は、私で」

「ああ」

「・・・恋人、は?」



瞬間、アスランが息を呑んだのがキラにもわかった。

キラは恥ずかしさに顔に血を上らせる。



「あ、あの、言いたくなかったらいいのよっ。

 ただ、ちょっと、気になっただけだからっ」



声を上擦らせたその言葉は、誰が聞いてもその通りには聞こえなかっただろう。

第一、誤魔化しになっていなかった。

その証拠に、キラが見ようとしていないアスランの顔は、笑みを刻んでいる。



時間を掛けないといけないと思っていたんだが。

キラから切り出してくれるとはね。



アスランにしてみれば、キラの心が自分に向かっていることは気づいていた。

だが、彼女自身がそれを自覚しているかは別問題。

だからこそ、強引に進めてしまうわけには、いかなかったのだ。

キラを怖がらせるわけにも、いかない。

昔と違い、キラにはアスランとは異なる世界があった。

そこは、今のアスランには行くことができない。

だから。

キラが自分から望んでくれなくてはいけないのだ。



「キラ。

 言っただろう?

 キラより大切な相手はいないんだ。

 キラなら、親友と恋人のどっちが大切?」

「・・・どっちも、大切。

 どっちも、だけど。

 だけど・・・」

「俺も、同じ」

 

顔を逸らせているキラの頬に手を添え、アスランは自分に向ける。

急な動きに、はっとしたように、キラがアスランと目を合わせた。

その瞬間を逃さず、アスランははっきりと告げる。



「キラが好きだ」

「す、好きって・・・」

「好きは、好きだよ。

 誰よりも、何よりも。

 わからない?」

「・・・ほ、ほんとに?」

「本当に。

 キラは、どう?

 俺のこと、好きじゃない?」

「好き。

 好きよ、とっても。

 アスランが、好き」



感極まったのか、キラの目が潤みだした。

頬を染め、はにかむような笑みを浮かべるキラは、アスランを一心に見つめる。



「・・・ここに。

 キスしていい?」



アスランの指は、キラの赤く色づいた唇に触れていた。

言葉の意味を覚り、キラは一瞬硬直する。

しかし。



「キラ、愛してる」



囁かれたその言葉に、キラは瞼を閉じた。

微かにその身を震わせながら。

間を置かず、アスランはキラの唇に、自らのそれをそっと重ねた。



***



ラウンジに入ったアスランを、ニコルがめざとく見つける。

手を振る彼へと、アスランは歩を進めた。

その手は後ろから従うキラと繋がれている。



「終わったんですね。

 あなたにしては、時間が掛かったようですけど」



あ、コーヒーを持ってきますね。

そう言ってアスランの返事も待たず、ニコルは身軽く席を立った。

と、アスランの傍に立ったままのキラに気づき、ニコルは椅子を引く。



「どうぞ、キラさん。

 ・・・どうかしましたか?」

「・・・ありがとうございます」



すぐに反応しなかったキラにニコルが心配そうに問うと、キラがはっとしたように礼を言って腰を下ろした。

アスランもその横に座り、俯くキラのその膝の上で握られた手に、手を乗せる。

ニコルに目配せをすると、彼は心得たように2人分の飲み物を取りに行った。

キラに目を戻したアスランは、キラの顔を覗き込むようにして話しかける。



「キラ、顔を上げるんだ。

 君は何も悪くない」



それまで普通に・・・やや恥ずかしげではあったが・・・していたキラは、アスランを手間取らせていたそれを思い出し、唇を噛み締めていた。



*** next

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