誰がために−36 | ||
キラは女の子です | ||
「ねぇ、アスランってば。 あれ、早くやらなくちゃいけないんでしょう?」 「いいんだよ」 でも、と躊躇うキラを、アスランは強引に連れて行く。 兵士達の行き交う通路を、キラはアスランに手を引かれていた。 「キラも休めって言っただろう。 それにね。 目処がついたから」 「・・・目処?」 「そう。 手間取っていたのは、あれだけ異質だったからだよ。 まぁ、キラのだったなら、仕方ないけどね」 さらっと言われ、キラは動揺が隠せない。 握った手からそれが伝わったアスランは、立ち止まった。 「・・・キラ」 「だって・・・」 アスランはキラを手近な部屋へと連れ込む。 このままのキラを、皆の前に連れて行くのは躊躇われた。 「知らなかったんだろう?」 「ええ。 ええ、知らなかった。 あれは、教授に頼まれて。 研究用ではないのは、聞いていたの。 モルゲンレーテのだって。 まさか、あんな使い方だなんて・・・思ってもみなかった。 教授は知っていたのかしら・・・?」 沈んだ声のキラは、俯いて足下を見ている。 アスランはキラを引っ張った。 もちろん力加減はされていたが、キラは不意を衝かれて小さく悲鳴を上げる。 「キラは気にしなくていいんだよ」 アスランの胸に倒れ込んだキラは、その胸に手を着いて体を起こそうとした。 しかしキラの背にはアスランの腕がまわされていて離れることが出来ない。 顔を合わせないことに、キラはなぜかホッとして、目の前の肩に額を押しつけた。 「キラは何も悪くない」 「でも、あのせいで・・・」 「苦労してたけどね」 「・・・」 「それだって、キラが何も事情を知らされていなかった証拠だろう」 そう。 各種の作業に使う機体と、モビルスーツとでは、格が違う。 そのつもりで作られたプログラムと、そうでないもの。 その差は歴然としていた。 キラがその気になれば、システムは全く違う出来になっていたことであろう。 「その教授も、知らなかったのかもしれないよ」 「・・・そんなこと」 「知っていたなら、それなりの説明をキラにしたんじゃないかな。 地球軍の兵器、とまでは言わなくてもね。 キラなら、どんな説明でも、引き受けただろう?」 「・・・なんか、考えが足りないって言っている?」 「まさか。 俺が、キラにそんなこと言うはずがないだろう?」 「・・・でも、思ってはいるのね」 拗ね始めたキラの頭を、アスランがポンポンと宥めるように叩いた。 決して誤魔化そうと思って言ったわけではないが、キラの気分を浮上させるにはこの方がいいと、アスランは思う。 「素直なのは、キラのいいところだよ。 安心できる」 「安心?」 「キラがいると、落ち着く。 ずっと、独りだったから」 落ち着くとは相反する気持ちが湧くこともあるが、アスランにとってはそれも真実だった。 アカデミーに入学し、軍に入隊して。 そこでは常に、一人で立つことを求められていた。 「一人? でも、アスランの周りにはいつも人がいっぱい・・・」 「プラントではね、キラ。 気を許せる相手と出会えなかった。 キラとのようには、ね」 「ニコルさんや、ラスティさんは?」 さすがにキラも、イザークやディアッカの名を出す気にはならない。 キラの目から見ても、あの2人はあまりアスランと良好な関係とは思えなかったからだ。 だが、ニコルとラスティとは、アスランも気安く話していたように見える。 「そう・・・だな。 でも、キラが一番なことに変わりはない」 敢えて否定はせず、アスランは腕の力を緩め、キラの顔を上げさせた。 その額にそっとキスをする。 「一番? ほんとうに?」 「当然だろう。 俺にとってキラより大切な人間はいない。 キラがいれば、他はいらない。 誰よりも、キラがいい」 キラは真摯なアスランを見つめ、そしてずっと訊きたかった事を訊いてみようと思った。 *** next |
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