誰がために−35


キラは女の子です


「これ・・・よね?」

「ああ。

 ここだけ、他と違うんだ」



それまで素晴らしいスピードで動いていたキラの手が止まる。

モニターを睨んでいた目をアスランに向けたキラに、アスランが頷いた。

キラは思いがけず近くにあったアスランの真剣な眼差しに、ちょっと息を呑んで慌ててモニターに向き直る。

鼓動を早めた胸に手を当て、キラは落ち着こうと大きく息を吸い、ゆっくりと吐きだした。



「キラ?

 疲れた?」

「え?

 あ、そんなことないわよ。

 まだ始めたばかりじゃない」

「だが・・・」

「大丈夫!」



ちょっとびっくりしただけよ。

ドキドキしちゃった、だけ。

・・・言えないけど!



体温を感じるほど傍にいるアスランに、一度意識してしまったキラの心臓はなかなか戻らない。

それでもなんとか目の前に表示されたプログラムに集中しようと努めた。

モニターに向かうキラの横顔を見つめ、アスランは知らず微笑む。

キラに席を譲ってから彼女に訊かれるまで、彼はただキラを見ていた。

ことプログラミングについては、彼はキラの腕を信じている。

彼女に任せることに、微塵の不安も感じていなかった。

だから、アスランは望むままキラを見つめていられる。

と、そのキラの顔が変わった。

愕然として見える。



「キラ、どうした?」



アスランはキラが視線を固定しているモニターに目を移した。

だが、もちろん一部分だけしか表示しておらず、アスランにはそれで理由などわからない。



「これが、どうかしたのか?」

「これ・・・、これは・・・」



アスランの声が届いていないらしいキラは、唇を震わせて呟きだした。

再びキラの指がキーを弾き始める。



「・・・なんで?

 そんなはず、ないのに。

 ・・・どうして?」



キラの指は、今までの軽やかな動きと違い、激しくキーを打っていた。

モニターの中では、問題のプログラム以外のものも次々と表示されていく。

それに目を走らせながら、キラの呟きは止まらない。



「ここに、あるはずは、ないわ。

 違う、はず・・・。

 そのはず、なのに・・・っ」



バンッ、と。

キラは思わずキーボードに両手を叩き下ろした。



「な・・・、キラ!?」



さすがに慌てたアスランは、キラの両手首を掴んで引き寄せる。

モニターのエラー表示に舌打ちし、しかしキラの顔を見たアスランは気遣わしげな表情に変わった。

キラは唇を噛み締め、今にも泣きそうな顔をしている。



「キラ・・・」



アスランの手がキラの頬をゆっくりと撫でると、キラの視線がアスランに合わせられた。

そしてアスランの指がキラの唇をなぞる。



「傷がつくよ」

「・・・アスラン」



しばし見つめ合った後、アスランが不意に優しく微笑んだ。

突然の笑みに、またしてもドキッとしてキラが頬を染める。

そんなキラを、アスランはそっと立たせて、揃って素早くコックピットを出た。



「ア、アスラン!?」

「ここまでにしよう」

「で、でも、まだ終わって・・・」

「いいから」



振り返ろうとするキラの腰を抱き、アスランはモビルスーツを蹴る。

前方を見据えるアスランをキラはちらっと窺い、口を開いた。



「・・・訊かないの?」

「訊いて欲しい?」

「・・・うん。

 うん、話さないと。

 あれ・・・あれね。

 私が作ったのだと思うの」

「・・・そう」



素っ気ない返事だったが、キラはアスランの腕に力が籠もるのを感じる。



「兵器に使われるなんて、思わなかった。

 あれだけじゃなくて、他のも。

 作ったのは私じゃないけど、憶えてる。

 モルゲンレーテで、見たわ」



そのまま口を噤んだキラは、格納庫を出たところで、ぽつんと言った。



「ほんとに、モルゲンレーテであれを作っていたのね」



アスランの言葉を疑っていたわけじゃないけど、と。



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