誰がために−34


キラは女の子です


「よぉ、ラスティ。

 暇そうだな。

 そっちは終わったのかよ?」



ラスティの横にどっかりと腰を下ろしたディアッカは、彼には珍しく疲れているふうを見せている。

声を掛けられたラスティは食事をする手を止め、ディアッカを横目に見ながら、はぁと息を吐いた。



「終わったように見えるかよ?」

「見えるぜ。

 イザークは出て来やしねぇ。

 声掛けても返事もないさ」

「そっちもかよ。

 ったく、なんだってんだ」



言外に自分も同じ状況にあることを告げ、ラスティはパンに手を伸ばす。

ちぎっては口に運び、しばし食べることに集中しているようだった。

ディアッカも、黙々とトレイの上の料理を胃に収めていく。

と、向かいの席に誰かが座った。



「2人とも、そんな顔でどうしたんです?

 みんな、気を遣ってくれてますよ」



ほら、とニコルに言われ、ラスティとディアッカが首を巡らす。

そう広くない室内で、彼らの周囲は空席ばかりだった。

混んではいないものの、それなりに人はいるのだから、どう見ても避けられている。

さらに言えば、妙に静かであった。

戦闘中では無いので、いつもであれば話し声や笑い声で溢れているのに。



「・・・そうみたいだな。

 だけど、不機嫌にもなるってもんだぞ。

 朝からやって、まだ終わらないんだ」

「同じく。

 ・・・まぁ、俺はまだ始めたばかりだけどな。

 つうか、始められてないんだが」



イザークが終えてからディアッカも作業に入る予定だった。

しかしそのイザークが、終わらない。

それでもただ待つのもなんなので、とりあえず始めてはみた。

だがそれも、イザークと同じところで引っ掛かる。

無駄の嫌いなディアッカは、さっさと切り上げてしまった。

機嫌が悪いのは、予定通りにいかないこと。

それと。



「なんなんだ、あのシステム。

 稚拙で、明らかにナチュラルが作ったのは明白なのに。

 なんだって、俺達がこんなに苦労するんだよ」



ようするに、気持ちの問題だった。

劣るはずのナチュラルに、コーディネイターの己が敵わないと認めたくない。

イザークも同じだが、彼の方は意地でも攻略しようと、今も頑張っているはずだ。



「ニコルはどうだった?

 まさか・・・」

「まさかって何です、まさか、って。

 ・・・まぁ、僕もディアッカと同じですよ。

 イザークがあれだけ荒れていればね。

 焦ってもどうにもならないと思います。

 腰を据えてかからないと」

「で、まずは腹ごしらえって?」

「もちろんです」



ニコルはにっこりと頷き、しかし、ふと動きを止める。



「ラスティ、アスランはどうしました?」

「アスラン?」

「さすがにアスランはもう終えたでしょう。

 教えてもらおうかと思っているんです」

「はん?

 一人で出来ないんだ」



揶揄を含んだディアッカに、ニコルはしれっとして答えた。



「あなただって、同じじゃないですか。

 どうせ、イザークが終わるのを待つつもりなんでしょう?」

「ぐ・・・っ」



図星を指されて言葉に詰まるディアッカ。

しかしニコルはもう相手をせず、ラスティに再度訊ねた。



「アスランは?

 ラスティ、知ってますか?」

「・・・まだやってるよ」

「アスランもですか!?」

「・・・まぁ」

「そうですか、アスランでも・・・。

 ですけど、いい加減休んだ方がいい。

 僕、ちょっと呼んで来ます」



言うが早いか、そのまま立ち上がったニコルを、しかしラスティがその腕を掴んで止める。

ニコルは、ラスティを怪訝そうに見下ろした。

イザークも朝からなんだけどなと心の中で呟きながら、ディアッカは頬杖をついて2人を窺う。



「やめとけ、ニコル」

「ですけど」

「あてられるから」

「・・・は?」

「邪魔しちゃ悪いし」

「・・・何の話です?」



ラスティはニコルから手を離し、さらに目を逸らした。



「アスランのことさ。

 あいつ、顔が緩みきってて、見てられないぞ」



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