誰がために−33 | ||
キラは女の子です | ||
「なぁ、アスラン。 ちょっと教え・・・」 てくれ。 そう続ける声が消える。 名を呼ばれて仰ぎ見たアスランの前、そこにポカンと口を開けたラスティがいた。 モビルスーツのコックピットの中でアスランは、訝しげに眉を寄せる。 「ラスティ?」 「おま・・・」 「?」 「お前ら、何やってんだ? 場所考えろよ」 「場所って・・・、他で出来るんですか?」 息を吐き出すように告げるラスティに、キラが不思議そうに返した。 あまりにも意外そうに言うキラに、ラスティは首を傾げる。 あれ? ラスティが最初に覗き込んだその時。 アスランとキラとが、互いに向き合って、腕を伸ばしていた。 狭いコックピットの中。 アスランがシートから腰を浮かした体勢で、キラの腰を手で支えて。 ラスティの声に、2人はそのまま顔だけを彼に向けてきた。 イチャついていた、わけじゃないのか? アスランはともかく、キラが平然としているのに、ラスティも自分が誤解した気がしてくる。 ちなみにアスランも平然としているが、彼がそのくらいのことで動揺するとも思えないので判断基準にはできなかった。 だから、改めて訊き直してみる。 「お前ら、何をやっているんだよ?」 「システムの再構築だ。 ラスティもやってるだろう?」 「いや、そうじゃなくてさ。 あぁ、その、なんだ。 ん・・・とりあえず、キラは、なんでここに? っつうか、なんで彼女が座るんだ?」 アスランはラスティと会話しながら、キラと位置を入れ替えていた。 重力の無い狭い場所でうっかりした動きは、危険。 起動中のコックピットであれば、手足がパネルやキーボードに触れたりするだけでも、思いがけないことになったりする。 そうでなくとも、キラが壁面にぶつかって痛い思いをさせたりするアスランではなかった。 キラをゆっくりとシートに乗せる。 アスランは、先ほどまでのキラのように、横の空間に立った。 「いくつか、おかしなところがあってな。 それで、キラに見てもらおうとしていたんだ」 「お前でも、わからないことあるんだ?」 「当たり前だろう。 まぁ、時間を掛ければ、出来るだろうが・・・」 「私が、やらせてって頼んだんです。 だって、アスラン、疲れた顔してると思いませんか?」 「そうか?」 キラの言葉に、ラスティがアスランの顔をまじまじと見つめる。 んー、と考える様子を見せた後、ラスティは肩を竦めた。 「まぁ、疲れているっていやぁ、疲れてるだろうな。 けど、顔には出てないぞ? まぁ多少、目が充血してるみたいだけどな。 こりゃ、寝不足だろ?」 「そんなことないです。 どう見ても、疲労が溜まってる顔です。 だから、少しでもお手伝いしたいんです。 ・・・邪魔だったら、そう言ってね?」 ラスティにはきっぱりと言うキラだが、最後にアスランへ控えめに告げる。 躊躇う素振りのキラに、アスランは彼女の頭に手を伸ばして、髪を梳くように撫でた。 「邪魔なんかじゃない。 キラがいると、それだけで気持ちが落ち着く。 それに、こういうのはキラの方が得意だからな」 「あ、でも、成績は悪かったわ。 ・・・そうだった、ごめん。 そうよね、私がやるより、やっぱりアスランのが早いわ」 「キラ」 恥ずかしいと頬を染めたキラが慌てて席を立とうとするのを、アスランがその肩を押さえる。 「キラ、そんなことはない。 成績が良かったのは、単に基本に忠実だったからだ。 ことプログラミングについては、キラに敵わないよ」 「だけど、でも・・・」 まだ言いかけるキラを放って、アスランはさっさとキーボードをキラの前に引き出した。 キラはキーボードとモニターと、アスランの顔を幾度か見比べ、意を決したようにその両手をキーボードに滑らす。 始めてしまえば、キラはもう、ラスティはおろか、たった今のアスランとの会話も忘れ去った。 目はモニターに釘付けになる。 システムの内容を確認し、調整し、場合によっては新たにプログラムを組んでいった。 「すげぇ・・・。 なぁ、キラってほんとにただの学生かよ? アスランが知らないだけじゃねぇ?」 ラスティの位置からはモニターは見えない。 だからキラが何をどうしているのかもわからない。 だが、わからないながらも、キラが淀みなく、すばらしいスピードで作業を進めているのはわかった。 それで、学生ではなく専門の技術者ではとラスティは訊くが。 「キラは昔から、こうだ」 そう答えたアスランは、モニターではなく、キラの横顔を愛しげに見つめているだけだった。 *** next |
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