誰がために−32


キラは女の子です


「今、何をしているの?」

「ん?・・・ああ」



コックピットの中、真剣な眼差しでキーを打つアスランが、時折手を止めて考える様子を見せる。

ハッチに座り込んで、アスランの顔を見ていたキラは、不思議に思っていた。

仕事の邪魔をしてはいけないと自制するつもりが、つい口をついて出る。



「システムの構築、だな」

「構築?

 でも、これもう動かせるんでしょう?

 改良とか、そういうのじゃないの?」

「それが、ちょっと弄ったくらいではどうしようもないんだ。

 元々のが役に立たなくてね。

 ほとんど、一から組み直しだ」



うんざりしたように言うアスランに、キラが顔を曇らせた。



「じゃあ、まだ時間掛かるのね」

「退屈した?

 ごめん、部屋に送るよ」

「じゃあなくってっ」



立ち上がろうとしたアスランをキラは手で留める。

キラはアスランの方へ体を傾け、手を伸ばしてその頬に添えた。



「アスラン、疲れているでしょう。

 無理、してるんじゃない?」

「心配してくれてるんだ?

 ありがとう、キラ。

 でも、大丈夫だよ」

「目が、少し赤いわ。

 もしかして、昨夜、あまり寝ていないの?

 私がアスランの部屋で一緒だったせい?」



寝起きの悪いキラは、今朝のアスランの様子が思い出せない。

キラが起きた時には、アスランは既にきっちりと身支度が整っていた。



「そんなことはないよ」



沈んだ顔をするキラに、アスランはきっぱり、違うと告げる。



寝不足の要因は、確かにキラだけど。

まさかそれを言うわけにもいかないしな。



代わりに、別の要因を示すことで、キラの気を逸らせた。



「任務を前に、緊張が続いていたんだ。

 寝不足に見えるなら、そのせいだよ。

 疲れているのは、朝からこれに掛かりきりだから。

 いい加減、うんざりしてるんだ」



アスランは、わざと大きく息を吐いてみせる。

キラもちょっと口を噤み、そのまま身を引いた。

先ほどまでと同じ姿勢に戻り、だが今度は横を向く。

アスランからは、キラの横顔だけが見えた。



「それなら、休めばいいのに」

「できれば、そうしたいけど。

 これは少しでも早く、片を付けないと」

「アスランが、少し休憩をとるのもダメなの?」

「そうだね・・・」



シートに座り直したアスランは、またキーボードを叩き始める。

だが、やはり時々手が止まっていた。



「ねぇ、アスラン。

 アスランってパイロットなんでしょう?

 なんで、アスランがそんなことしてるの?

 専門の人とか、いないの?」

「いることは、いるよ。

 だけど、5機も一度にできないだろう?

 それに、自分の機体は、自分自身が一番よくわかっていないといけない」

「自分が?」

「ああ、そうだ。

 もちろん、整備士に任せっきりのパイロットもいないわけじゃないが。

 できることは、やるべきだろう」

「・・・アスラン、なんでもできるもんね。

 それも、とびきり優秀なんだから。

 あ、じゃあ、他の人たちは?

 やっぱり自分でやってるの?」

「イザークは、今やってるな。

 ラスティはあまり得意じゃなくてな。

 整備士と一緒にやってるはずだ。

 ニコルとディアッカは午後からの予定かな」



邪魔をしちゃいけない。

そう思いながらも、アスランの意識が他に向いているのが、キラは寂しかった。

それで、せめてもっと近くに行こうと、コックピットの中に入り込む。



「キ、キラ!?」

「せっかく会えたんだから、傍にいさせて」



アスランは唖然とキラのその動きを見ていた。

シートの横の空間に身を収め、キラはアスランの腕に手を掛ける。

小首を傾げ、ね?と。

はにかむような笑顔を向けられ、アスランは逆らえなかった。



「仕方ないな、キラは。

 わがままなんだからな」

「・・・そうよ、わがままなの」



アスランにだけ、ね。

でも邪魔だったら、そう言ってねと。

そう付け加えることも忘れなかった。



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