誰がために−30


キラは女の子です


「・・・いいんですか?

 アスラン、格納庫へ行っているんですよね?」



ミリアリア達と聞いた軍からの説明で、居住区の、それも限られた範囲からは出ないように言われていた。

ここは軍艦の中であるから、と。

軍の機密の関係と、そして各々自身の安全を保障する為に。

場合によっては、スパイとして拘束されると。



アスランには会いたい。

会いたいけど、迷惑は掛けられないし。



「僕と一緒ならかまいませんよ。

 どうですか?」

「で、でも、ミリィは・・・」

「私のことは気にしないでよ、キラ。

 行って来なさいな。

 行きたいんでしょう?

 私はトールといるから、平気」



戸惑うキラの腕を掴んで、ミリアリアは一緒に立ち上がる。

フレイのいる部屋にキラを行かせたくなかったニコルは、ほっと息を吐いた。

2人が歩き出すと、ニコルも席を立ち後に続く。

ミリアリアがキラの耳元に口を近づけて小声で話しだした。



「それで、どうなった?」

「どうって・・・?」

「アスランさんと、よ。

 進展あった?

 あれからずっと話していたんでしょう?」

「話って・・・。

 ニコルさん達を紹介してもらってたから」

「だ・か・ら。

 その後よ、その後。

 気になっていたのよねぇ」

「いや、だから。

 ・・・途中で寝ちゃったんだってば」



ぴた、と。

ミリアリアが足を止め、腕を絡められていたキラもたたらを踏んで立ち止まる。



「寝た?」

「あ、だって、疲れていたのよ。

 アスランに抱きついたらね。

 ああ、アスランだなぁって思ったのよ。

 そこから記憶が無いんだ」

「抱きついた?

 じゃあ、なに、あなたったら。

 初対面の男の人達の前で、男の子に抱きついて。

 いや、それはいいけど。

 でも、そのまま眠っちゃったの?

 ちょっと、キラ。

 なんて危ない・・・」

「ちょっと、・・・ミリィ?」



ミリアリアが体の力を抜いてキラにもたれ掛かってきた。

支えきれずに、キラは彼女ごとしゃがみ込む。



「ね、ねぇ、ミリィ。

 外に出よ、外。

 人が見てるから、ね?」



今度はキラがミリアリアをひきずるように歩いた。

ちらっと後ろを窺うキラの目に、苦笑するニコルが映る。

目が合うと、苦笑を消して横を向いて見ないふりをしてくれる仕草に、キラの恥ずかしさが増した。

ほとんど小走りにラウンジを出る。

通路に人影の無いのを確認して、ミリアリアと向き合った。



「ミ・・・」

「キラ、自覚しようね」



口を開き掛けたキラを制して、ミリアリアがキラの両肩をがしっと掴む。

真剣な顔のミリアリアに、キラが目をぱちくりとさせた。



「あなた、とっても綺麗なの。

 男の子の前で寝るなんて、絶対ダメ。

 言ってることわかる?」

「わかる、けど。

 ・・・私だって、普段なら寝たりしないわよ。

 昨日は特別。

 それに、アスランがいたんだもの。

 私、アスランがいるとよく眠れるのよ、昔から」

「・・・じゃあ、夕べはほんとうによく眠れたのね?」

「うん。

 アスランに起こされるまでね」

「・・・どこで寝たの?」

「ん・・・眠っちゃったのは、話をしてた部屋。

 起きたら、アスランの部屋だったわ」

「・・・ああ、そう。

 それで、今晩はどうするの?

 こっちに戻る?」

「そりゃ、アスランに迷惑になったら困るもの」



いくらなんでも、私室にキラを泊めていいわけがない。

キラにもそれくらいはわかっていた。



「じゃあ、今夜の報告を楽しみにしてるわね」

「報告?」



ミリアリアは、やや離れて佇むニコルに聞こえないように声を潜める。



「アスランさんに、ちゃんと言うのよ。

 好きって」

「ミリィ・・・っ」



焦るキラにウィンクを送ると、ミリアリアは足取り軽く歩み去った。



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