誰がために−26


キラは女の子です


「ナチュラルが先に攻撃してきた。

 コロニーを一つ、住人もろとも消し去った。

 あそこには、軍に関係するよなものなどなかったのに、だ。

 そんなものを、許せるものか!」



イザークに怒鳴りつけられ、キラはビクッと身を引く。



「落ち着けよ、イザーク」

「怒鳴らなくても聞こえる。

 普通に話せないなら、出ていけ」



やや怯えたようなキラに、ディアッカとアスランが、イザークを諫めた。

・・・アスランの言葉は逆効果だったが。

ニコルも、口にはしなくてもイザークに咎めるような目を向けている。

さらに続けようとしていたイザークは、周りのそんな様子に口を閉ざした。



「じゃあ・・・。

 あなたは?」

「キラ?」



ボソッと。

言葉を発したキラの声の調子を変に感じたアスランがキラを見る。

だが、キラの目はイザークを見ていた。



「あなただって、ヘリオポリスを攻撃したでしょう。

 中立国のコロニーを」

「それは、オーブが地球軍に協力を」

「そんなこと、訊いているんじゃないです」



キラはイザークの言葉を遮り、首を振る。



「アスランから、理由は聞きました。

 でも、あなた自身はどうだったんですか?

 ヘリオポリスで戦闘をすることに対して。

 関係のない人を巻き込むかもしれないことに対して」

「・・・攻撃目標は、モルゲンレーテだ。

 民間人など」

「巻き込んだよなぁ」

「俺は巻き込んでいない!」



口を挟んだディアッカに向かって、イザークが怒鳴った。

しかしディアッカはしれっと答える。



「まぁ・・・アスランだわな、確かに」

「違います。

 たまたま、あそこにアスランがいただけでしょう。

 それに、私のことはいいんです。

 こうして無事なんですから。

 でも・・・」

「キラ」



潤んできたキラの声に、アスランがキラを抱き寄せた。

それを切っ掛けに、キラの瞳から涙が零れる。



「家が、無くなっちゃった」

「ごめん、キラ」

「ち、違うの、アスラン。

 謝って、欲しいわけじゃないの。

 アスランが戦う理由は聞いたもの。

 そうじゃなくて。

 他の人はどうなのかって」



アスランの胸が顔を上げたキラがイザークを見た。



「あなたは、どんな気持ちで戦うんですか?

 復讐?

 ナチュラルへの憎悪?」

「違う!

 プラントを守るためだ!

 確かに、ナチュラル達は気に入らない。

 不当な要求を受け入れることなど、できるわけがない」



キラの言うような気持ちで戦いなどしないと。

そうキッパリと言い切ったイザークに、キラは溜めていた息を吐く。

目を閉じ力を抜いたキラは、ポフッとアスランの胸に戻った。



***



「キラさん、眠っちゃったんですか?」

「今日は、いろいろあったからな」



キラはアスランの胸に体を預けたまま寝息をたてている。

アスランはそんなキラの頬に残る涙の跡を拭い、顔にかかる柔らかな髪をそっと梳き上げた。

そっと呼びかけてもキラが目を覚まさないことを確認する。

そして、目の前で複雑な顔をしている同僚達に、注意を施した。



「キラは、第一世代だ」

「って、アスランと同じ歳でしょう?」

「そうだ。

 珍しいことだが、いないというわけでもないだろう。

 キラにはナチュラルもコーディネイターも違わない。

 ここへ来たキラの友人達は全員ナチュラルだった。

 だから、キラへの言動には気を付けてくれ」



ナチュラルを馬鹿にするような言葉は厳禁。

そう言われて、ディアッカとニコルの視線がイザークへと向く。

どう考えても、危ないのはイザークだった。

アスランも同様なのか、その目はイザークだけを捉えている。

イザークは、アスランの言うとおりにするのが気に入らないのか、結果睨み合っていた。

けれど、イザークが目を逸らす。



「イザーク?」

「ふん。

 女をいじめる気はない」



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