誰がために−23


キラは女の子です


「本当よっ。

 ねぇ、アスランったら。

 ・・・こっち向いて」



自分を見てと言いながらも、キラは逆側を向いているアスランの前に回り込んだ。

目を合わせ・・・、キラが顔色を変える。



「・・・あーっ!」



アスランは目が合った途端、くすりと笑ったのだ。

それは、キラが昔よく見た表情。

キラをからかって楽しんでいるときの顔だった。



「ア・ス・ラ・ン!?」

「くっ・・・・・・・・、な、なんだい?」

「・・・いいわよ、もう」



楽しそうなアスランに、キラは息を吐く。

こちらは本当に拗ねてしまったようだ。

気づいて、アスランは咳払いをする。



「あぁ、・・・怒った?」

「怒ってない」

「そう?」

「うん」



唇を尖らせて、横顔ばかり見せるキラに、アスランまたも悪戯心が湧いた。

悪戯・・・だけでもないのだが。

キラの頬に、そっと唇を寄せる。

触れた途端、びっくりしたキラは飛び離れた。



「な、な、な・・・!?」

「どうしたの、キラ?」

「い、今、今の・・・っ」



今、ほっぺにキスされた?

あ、いや、こんなの昔は泣く度にしてもらったよね?

なのになんで私、こんなに焦ってるの?

あーん、顔が赤くなっちゃう!



「怒っていないんだろう?」



微笑みながら一歩近づいてくるアスランに、キラは半歩後ろに下がる。



「顔が真っ赤だよ、キラ。

 暑いの?」



ヤダ、私、意識しちゃってる?

ミリィがあんなこと言うから・・・っ。



さらに近づくアスランに、キラもまた下がろうとしたが、背がなにかに突き当たった。

ビクッとして振り向き、そこがもう壁であることに気づく。

狼狽えて顔を戻すと、すぐ間近にアスランの顔があった。



「具合が悪いのかな?」



アスランが両手をキラの頬に当てる。

キラは反射的に目を閉じた。

アスランの手のひら、キラが微かに震えているのが伝わる。



怖がらせちゃいけないな。



声を立てずに、アスランは苦笑を漏らした。

こつん、と。

額に触れる感触に、キラが目をゆっくりと開く。



「熱は無いね」

「う、うん」



身を離すアスランに、キラの体から力が抜けた。



な、なんだ。

考えすぎたのね、私。

キス、されると思っちゃった。

そんなわけ、ないよね。



「キラ!?」



足の力まで抜けてしまったキラは、その場にペタンと尻餅をつく。

慌ててアスランも、かがみ込んだ。

キラは熱くなっている頬に手を当てている。



「キラ?」



チラッとアスランを見上げ、だが恥ずかしげにまた俯いた。

アスランがその顔を覗き込もうとすると、キラはさらに顔を隠してしまう。

どうしたものか、と。

そう考えながらも、実のところ、アスランは嬉しそうに微笑んでいた。

こうして、素直な反応を示すキラを間近に見られる。

終戦まで無理だろうと、諦めていたことだった。

キラの頬を熱くし、アスランの胸を暖かくするそれは。

しかし、一つの声で遮られる。



「・・・アスラン?

 そんなところで、何をなさっているんですか?」



呼ばれ、顔を向けたアスランの目に、見慣れた少年が映った。

まっすぐに続く通路を、前方から近づいてくる。

その背後にさらに余計なものを引き連れて・・・。



「ニコル、ミーティングルームで待てと言っただろう?」



立ち上がったアスランに、しかしニコルの視線はその足下・・・キラに向けられていた。



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