誰がために−14


キラは女の子です


「血のバレンタイン・・・」



ユニウス7。

そこで起きた、悲劇。

何一つ軍事施設の無いコロニーが、地球軍の核によって消滅。

緊張の高まっていた地球・プラント間が、それを期に一気に全面戦争へと流れた。

それはヘリオポリスにいたキラも知っている。



おばさまが、あそこにいた?



「警告もなく、俺はただ、結果だけを知った」

「アスラン・・・」



感情の見えない、平坦な声だった。

しかしだからこそ、キラにはアスランの中にある傷が見える。



まだ、たった2年前のことだもの。

まして、こんなことで。



こうして知ったキラもとても悲しかった。

信じたくない。

信じないわけにはいかないけれど。



「俺には、何もできなかった。

 母は、ただ研究をしていただけなのに。

 母だけじゃない。

 あそこは農業コロニーだったんた。

 ナチュラルとの争いなんか、無縁の。

 だから、俺は」



キラを抱きしめる腕に、一段と力がこもった。

少し苦しいくらいのその力に、キラは何も言えない。



「俺にもできることがあるなら。

 何かをしたかった。

 こんなことを繰り返させないために。

 早く、戦争を終わらせるために。

 だから・・・」



アスランは、そこで不意に口を噤んだ。

次の言葉を待つキラが訝しがるほどの後、アスランの腕が解ける。



「アスラン?」



背中の温もりが消え、振り返ったキラの前に、アスランが背を向けていた。



「アスラン、どう・・・」

「今さらだったな。

 結局、俺達は地球軍と同じことを引き起こしてしまった」

「アス・・・」

「すまない。

 もう少しで、キラも。

 そんなつもりじゃなかったことなど、言い訳にしかならない」



顔を見せないまま潔いことを言うアスランに、キラは泣き笑いを浮かべる。



バカね、アスラン・・・。



キラはスッとアスランの前に回り込んだ。

そして、低重力をいいことに、軽く飛び上がる。

驚いて支えようとしたアスランの手を無視して、アスランの頭を胸に抱き寄せた。



「アスラン、ごめんね。

 そんな辛いときに、私は何もできなかった。

 何も、知らなかった。

 こうして、抱きしめてあげることもできなかった。

 一緒に、泣くことも。

 ねぇ、アスラン」



いつの間にかアスランの腕がキラの腰の下にまわされ、どちらかというとキラが抱き上げられているように見えるだろう。



「言って。

 言い訳、して。

 もっと話してよ」



キラは腕を解いて体をやや離すと、アスランの両頬に手を当てて上向かせた。

アスランの翠の瞳を覗き込む。



「アスランは、復讐を望んでいるんじゃないんでしょう?」

「ああ。

 そんなことをしても、何もならない。

 母が帰ってくるわけでもない」

「アスランが・・・ザフト軍がヘリオポリスに来たのには理由があるんでしょう?」

「・・・地球軍が兵器の開発をしていた。

 ヘリオポリスのモルゲンレーテの協力で」

「・・・あの、モビルスーツ?」

「それと、戦艦。

 奪取または破壊をしなければならなかった。

 地球軍の力をつけさせるわけにはいかない。

 また、戦争が長引いてしまう」

「うん。

 うん、アスラン」

「巻き込んで、すまない、キラ」



目を逸らさないアスランに、キラは笑いかけた。



「また会えて、嬉しいわ、アスラン。

 これだけは、地球軍とザフト軍の両方に感謝する。

 ずっと会いたかったの。

 寂しかったのよ、アスラン」

「俺もだ。

 戦争が終わるまで、会えないと思っていた」



気がかりなことは、いくつもある。

だが今のキラは、アスランに会えたことをただ喜ぼうと思った。



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