誰がために−13


キラは女の子です


「嘘・・・でしょ?

 何かの間違いじゃ・・・ないの?

 ねぇ、アスラン!?」



目の前に立ったアスランを見上げながら、キラが叫ぶように問う。

否定して、と。

けれど、アスランは微かに視線を逸らした。



「嘘よ!」



アスランの仕草に答えを見つけたキラは、衝動のままアスランの横をすり抜ける。



「キラ!

 待て、キラ!

 一人で動くんじゃない!」



動揺していたアスランは、入室時にロックを掛けていなかった。

キラは、アスランが振り返るよりも早く扉に取りつき、素早く部屋から駆けだしている。

アスランもそれを追って飛び出した。



「キラ、待つんだ!」



キラよりもアスランの方が足が速い。

あっという間に追いつかれ、後ろ手をアスランに取られた。



「どうするつもりなんだ、キラ?

 キラが行っても、何もできない。

 行く方法も無いよ」

「そんなんじゃ、ない!

 信じられないの」



俯いて小さく呟かれた言葉に、重い沈黙が降りる。



「・・・俺が?

 俺が、軍人になったから?」

「・・・違う」

「キラを、連れてきてしまったから?」

「・・・違うっ」

「だから、俺のことが信じられない?」

「違うって言ってるでしょう!」



暗い目をキラに向けるアスランを、キラが怒鳴りつけた。

掴まれたままの手を強く振り払う。



「そうじゃないの。

 アスランが信じられる、信じられないって話じゃない。

 ・・・ヘリオポリスが、っていうのが、信じられないの。

 信じたくないの。

 わかるでしょう?」

「・・・ああ」

「だから、私の目で確かめたいの。

 宇宙が見える場所に連れて行って、アスラン」



***



展望室に案内されたキラは、目の前に広がる現実に、絶句した。



「こんな・・・」



ヘリオポリスは、もはや跡形も無い。

いや、違う。

ヘリオポリスがあったと思しき空間には、コロニーの残骸が浮かんでいた。

ただ、キラには言われなければそれがなんなのか、わからないだけ。



「どうして、こんな。

 父さん、母さん、みんな・・・」



キラの脳裏には、ヘリオポリスでの光景が浮かんでは、消える。

自宅で、カレッジで。

あの日常は、もう戻らないのだ。



「なんで、戦争なんか・・・」



アスランは、声を震わせるキラを背後から優しく抱きしめる。

その温もりに、キラは不意に涙が込み上げてきた。



「なんで、戦争なんてするの?」

「キラ・・・」

「アスランも、嫌いだって言ってたじゃない。

 なんでそのアスランが、こんなことするの?

 なんで、壊すの?」

「壊すために戦ってるわけじゃないんだ」

「でも」



胸の前にまわされたアスランの腕に、キラの瞳から雫が落ちる。



「戦うんでしょう?

 ナチュラルと。

 私の両親も、アスランの敵なの?」

「そんなはず、ないだろう!」

「じゃあ、なんでザフトになんて?」

「それは・・・」



できれば、アスランはキラには言いたくなかった。

言えば、とても悲しむことがわかっているから。

しかし言わねば、アスラン自身がキラに・・・。



「母が、死んだ」

「・・・え?レノアおばさまが?嘘!?」

「嘘じゃない。

 こんなこと、嘘なんか言えない」

「・・・いつ?」



振り向こうとしたキラを、アスランは腕の力で封じた。

そしてキラの髪に顔を埋め、しかしはっきりと答える。



ユニウス7で、と。



*** next

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