誰がために−10 | ||
キラは女の子です | ||
「ヘリオポリス、大丈夫かな?」 「・・・さぁな」 トールが漏らした言葉に、ミゲルは素っ気なく答える。 「俺、ナチュラルなんですけど」 「ああ」 「俺達、どんな・・・」 「あ? 訊きたいことは、はっきり言え」 ミゲルの口調は決して強いものでは無かったが、トールはビクッとして言い淀んだ続きを口にした。 「どういう扱いになるんですか? すぐ、帰って来られますか?」 「さぁ、隊長の判断によるな。 それに、あの地球軍の艦のこともある」 キラが気絶した後。 ミゲルとラスティは仕方なさそうに、トールとサイをモビルスーツに同乗させた。 時間が無いから、と。 2人を安全そうな場所へ連れて行く時間が。 トールもサイも拒否しようとして、キラを一人には出来ないと思い直した。 そして乗り込んだモビルスーツのモニターに映る街の光景・・・。 飛び回るモビルスーツ群と、何よりも、巨大な白い戦艦。 戦艦からの砲撃は、そのほとんどがモビルスーツに避けられていた。 結果は。 「あなた達は、なんでヘリオポリスに?」 「・・・任務内容を話すことはできない」 「じゃあ! なんで、コロニー内で戦闘なんて!? オーブの・・・中立国のコロニーなんだ。 なんだって、ザフト軍や地球軍が・・・!」 街の様子は、トールを絶句させた。 そこここから上がる煙。 コロニーを支えるシャフトが切れ落ち、建物を潰す。 警報で人影が無いとしても、壊れていく様はショックだった。 そして自分の家族や友達の無事を祈り。 ミリアリアが既に避難所に入っていたことに安堵した。 戦争など遠い世界の話だったトールは呆然と見ているしかなく。 宇宙空間に出てやっと、自分の横にいる人間が、こんな事態を招いた一人であることを思いだした。 「なんとか、言えよ!」 思わずミゲルに掴みかかったトールは、しかしすぐに動きを止める。 その喉元に、ナイフが突きつけられたのだ。 「大人しくしていろ」 「な、なんだよ・・・」 先ほどの威勢はどこへやら。 震えだしたトールに、ミゲルは言葉を継ぐ。 「少し、立場を考えるといい。 捕虜ではないが、客でもない」 「・・・!」 ナイフを引き、前方に向き直ったミゲル。 トールは少しでも彼から離れようとした。 「艦に行ったら、特に気を付けることだ。 軍の中では、ナチュラルは良く思われてはいない」 「・・・あなたは?」 「俺は、別に。 地球軍が敵だからといって、ナチュラル全てを敵とは思わない。 かといって、気にしないとは言えないけどな」 「そう、ですか・・・」 とりあえず大人しくしようと、トールは思うのだが、気になることはもう一つある。 「あの、一つだけいいですか?」 「なんだ?」 「キラは、どうなりますか?」 「キラ?」 「俺達と一緒にいた女の子です。 あなた達の仲間が、無理矢理連れて来ましたけど。 俺達はともかく、キラは女の子なんで。 あの・・・」 「・・・アスランの幼なじみとかって、あれか」 「キラは、あなた達と同じ、コーディネイターなんです。 だから」 「それなら、問題ないな。 俺達は同胞意識が強い。 特に女性は大事にする」 *** 「キラ・・・」 アスランは横抱きに膝に乗せたキラを愛しげに見つめた。 「目覚めたら、怒るか? でも、母上のように、離れていては守ることもできないんだ」 アスランが母と同じユニウス7にいたら、彼も共に死を迎えていただろう。 だが、それでも思わずにはいられなかった。 キラの行方がわからない間は、それでも自制できていたのだが。 「ずっと、傍にいてくれ、キラ」 *** next |
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